連載エッセイVol.163 「女性のいる大学へ: 変化の躍動」 横山 広美

2021-03-25

東京オリンピック・パラリンピック元会長、森 喜朗 氏の女性蔑視発言は大きな問題になり会長交代に至った。ようやく日本でも許されず、こうした動きにつながるようになったと思うと同時に、問題発言の際に「笑い」が起きたという報道が気になった。著者自身、昨年だけで2回、省庁の学術関係審議会で女性について発言した際に「笑い」を経験したからだ。ひとつはそんな大したことない問題という嘲笑、ひとつは緊張がゆるんだ笑いだった。半数近くが女性になったとはいえ審議会の場でこうした笑いが起きるのは、ジェンダーの問題が深刻な議論の枠組みに載っていないことを象徴している。後者では、審査を受ける10数名がすべて男性であったことも影響しているであろう。「女性のいない民主主義」で前田 健太郎 氏が指摘するように、いないことの負の影響は大きい。

私はこの3年半、「数学や物理学に女性が少ないのはなぜか」という研究をしてきた。理系の中でも、機械工学等と並び、数学や物理学は極めて女性が少ない。本学でも大学院で3%程度である。従来は就職のイメージがないことや、ロールモデルが問題視されていたが、我々のグループは、女性は数学ができないといった間違ったスレテオタイプや、女性が知的であることに否定的な人ほど、数学や物理学に男性イメージを持つことを明らかにした。つまり、こうした分野から女性を排除する男性イメージの形成に、その人の持つ女性蔑視の意識が強く影響していることを確認したのだ。予想していたとはいえこの結果は衝撃であった。共同研究をしている教育経済学を専門にする男性が、ジェンダーの問題から見ると、従来の議論から見えなかった、新たな真実が明らかになり大変面白いという。多くの男性研究者にも参加をしてほしい。

社会の問題を率先して解決していくのは大学の役割である。卓越大学院FoPM(変革を駆動する先端物理・数学プログラム)では、ダイバーシティセミナーを必須とし、今年度から実施した。多くの学生が真摯に考える様子をレポートで確認できたことはよかった。しかし根強い蔑視を持つ人もいる。まずはバイアスに気づき、認めること。間違った知識を正し行動につなげること。カブリ数物連携宇宙研究機構は、会議主催の際の女性割合をチェックし、人事審査の前に担当教員がバイアステストIATを受講することにしている。組織として取り組むことは多くある。4月から本学にも大きな変化が訪れると耳にする。ダイバーシティにまつわる冬の時代が終わり、新しい春を迎えることに大きな期待を寄せている。

『学内広報』no.1544(2021年3月25日号)より転載