連載エッセイVol.162 「オンラインでのコミュニケーション」 川越 至桜

2021-02-19

最近、縁あって保護猫と同居することになった。猫は昼夜を問わず、私がパソコンに向かっている間は、こちらの様子を窺いながらも邪魔をすることなく寝ている。しかし、パソコンを閉じ、背伸びをしたり立ち上がったりした途端、熱い視線を送り、遊んでもらうまで目を離さない。完全にロックオンである。互いに言葉は通じないが、仕事の邪魔をしないよう猫は猫なりに空気を読んでいるようである(飼い主の思い込みがある点はご容赦いただきたく)。

さて、昨今の新型コロナウイルスの影響で、会議や授業に加え科学技術コミュニケーション活動もオンラインとなった。これまで、科学技術をテーマにした様様な実験教室や中高生向けワークショップを実施してきた。対面であれば参加者との会話という言語的な情報に加えて、参加者の様子を見ながら「もう少し説明が必要かな」、「テンポを上げても大丈夫かな」という雰囲気を感じ取りながら、つまり、非言語的な情報も大切にしながら取り組んできたつもりである。しかし、オンラインになるとそれが途端に難しく感じられる。

科学技術コミュニケーションに限らず、対面でのコミュニケーションの場合、言語から得られる情報に比べて、非言語(視覚や聴覚)から得られる情報の方が多いとも言われている。しかし、画面越しの場合は、非言語情報が伝わりにくいため、それを補うために言語による情報を増やす必要が出てくる。つまり、対面以上に言語化することとなり、結果として、一つの事柄を伝えるのに、より時間を要する傾向となる。

ポストコロナでも、オンラインの活用は必須となっているだろう。これからのコミュニケーションは、言語化する能力に加えて、オンラインでも非言語情報を伝え、読み取るスキルも必要になるのかもしれない。この非言語情報に対するスキル、猫との意思疎通にも応用できないだろうか。

『学内広報』no.1543(2021年2月19日号)より転載