連載エッセイVol.172 「深い部分月食? ほぼ皆既月食?」 川越 至桜

2021-12-21

2021年11月19日夕方に部分月食が起こったが、ご覧になった方はいるだろうか。関東では、多少雲が出たものの晴れており、3時間以上にわたる天体ショーを見ることができた。この部分月食ではオンライン中継が各所で行われ、とあるオンライン中継において、筆者は月食の解説とチャットから寄せられる質問に回答していた。チャットからの質問のため、「小学生です」や「親子で見ています」といった情報があるといいのだが、質問者の情報が全くわからない場合は、どういった言葉を使い、何をどこまで伝えたらいいのか難しく感じる。

さて、科学技術の楽しさとともに、世の中での活用方法や社会的な課題などについて伝え、皆で考える取り組みのことを、科学技術コミュニケーションと呼んでいる。今回の月食中継を含め、筆者も科学技術コミュニケーション活動を実施してきた。実は、このような平時の科学技術コミュニケーションの他に、災害などの危機時や有事におけるクライシスコミュニケーションや、リスクについて情報交換し議論するリスクコミュニケーションがある。

平時の科学技術コミュニケーションでは、正確性も必要であるが、より分かりやすくという点に主眼がおかれていることが多い。意訳やたとえ話を使いながら、参加者にとって分かりやすくなるよう工夫されているのではないだろうか。今回の月食は、月の直径の97.8%が地球の影に隠される「とても深い部分月食」であった(隠される割合が大きい場合「深い」と表現することがある)。これを「ほぼ皆既月食」と表現しても問題はないだろう。一方、リスクコミュニケーションやクライシスコミュニケーションにおいては、より正確な情報交換が求められる。意訳やたとえ話は時には誤解を与える可能性もあるため、必要な情報をどう伝えるのか、より慎重な表現が必要になると言える。

正確性と分かりやすさを両立させるのは個人的には結構難しいと感じている。ほぼ皆既月食を眺めながら、そのようなことを考えていた。

皆既月食で赤く染まっている月

中継で写真が撮れなかったため、ご参考までに2018年1月31日の皆既月食の様子
『学内広報』no.1553(2021年12月20日号)より転載