プログラムの必修授業「現代科学技術概論Ⅰ」は、さまざまな立場から第一線で科学技術コミュニケーション活動に携わってる先生方をお呼びして講義をしていただく、オムニバス授業となっています。
第5回目は、東京大学 リサーチ・アドミニストレーター推進室、大学院理学系研究科研究支援総括室 高度学術専門職員の野上 識先生に「URAのお仕事」についてご講義いただきました。野上先生は東京大学にて博士号取得後、分子生物学、計量形態学を主なフィールドとして研究業務に携わられ、2014年より理学系研究科のURAとして研究科総体としての研究力強化に関わる業務に取り組んでおられます。2021年には、URAでも特に優れた経験、知識を有し、その中核的な役割を担うプリンシパルURAに認定されています。
URAとは
平成30年度の調査によると、日本全国で約1500人がURAとして従事しています。東京大学においては全部局から幅広くURAを募集しており、令和4年現在、独自の制度を通して認可を受けた54名の方が活躍の場を広げています。
URAが必要とされている背景
上図に示したような多種多様な業務はこれまで研究者自身が行ってきました。その結果、研究者はこれらの業務に多くの時間を割かざるを得なくなり、学内事務・管理運営業務の負担増加も伴って、研究者が研究にかけられる時間は減少していきました。そこで、各種業務のスペシャリスト同士が協同し、これら業務を肩代わりすることにより、研究を取り巻く環境の質的向上を図るとともに、研究者が研究に集中できる時間を確保することを目的としてURAは多くの大学・研究機関に導入されています。
URAにおける業務の実例
東京大学理学系研究科 研究支援総括室(以下「研究支援総括室」)においてはフラットな雰囲気のもと、多様な経歴を持ったプロフェッショナルが集結し、研究科全体としてのパフォーマンス向上に努めています。研究支援総括室ではプレアワード業務において個々の研究者の科研費申請書の手直しなどの支援ではなく、研究科としての比較的大型の予算獲得を志向しています。野上先生を含む研究支援総括室のメンバーが主体となって取り組んだ例として、卓越大学院プログラムへの応募があります。これは博士課程後期学生への経済的支援を目的にしたプログラムで、プログラムの萌芽段階より関連する分科会、委員会、省庁の動向に常に目を配り、公募書類の詳細をしっかり踏まえた上で約100ページにわたる申請書の作成を主導しました。晴れて申請が採択された後は予算執行状況の確認や中間評価・事後評価対応などのマネジメントを担当します。イベント対応、研究科の研究力分析なども研究総括支援室のお仕事です。
一方、野上先生は東京大学URI推進室の業務も兼任されております。URI推進室ではIR(Institutional Research)とよばれる大学の活動を収集・分析する活動において、大学全体を俯瞰した情報のとりまとめにご尽力されています。
URAになるには
東京大学においてはURA研修、URA認定、雇用制度を統一した独自のURA制度を運用しており、書面審査と面接を通して東京大学のURAとして資する人材の発掘・獲得に取り組んでいます。一方、一般社団法人が管轄するURAのスキル認定制度も別途存在しますが、こちらは書面審査のみとなっています。両者ともにURAに準ずる業務の経験が認定には必須になっています。新卒採用でURAに就くことはかなり稀であり、これらの制度を通してはじめてURA業務の経験者が可視化されるというのが実態のようです。
野上先生自身は研究者としてのキャリアの後に、戦略的な仕事に携わってみたいという思いのもとURAの世界に飛び込んだそうです。研究者としての経験は、現役の研究者と互いに敬意を払った関係を築くのに役立つとおっしゃっていました。
質疑応答
Q1: URAに適した人材発見やキャリアパスの創出についてどうお考えか?
A2: URAのスキルを可視化することが大事。そのスキルも持って次の職に応募し、URAを渡り歩くことをイメージしている。URA自体の募集は増えている。
Q1: URAの経験を通して、東京大学というものに対する見方はどう変わったか?
A2: 東京大学は良くも悪くも縦割りだと感じる。まだまだ部局同士の壁が高いので、URAが横に繋いでいけばよいと思う。
Q3: 研究者が書類の締め切りを守らない際はどのような対応をとるのか。
A3: 研究者は研究に対してフォーカスするあまりに自分でも気づいていないことがある。そこに対してURAが仲介する余地はある。
Q4: 研究者の負担を軽くする方策は海外ではどのような取り組みがあるのか?
A4: アメリカでは、プロフェッショナルの集団があってスキルの認定、研修を行っている。ヨーロッパではリサーチ・マネジャーと呼ばれるグループがあり、博士号を持った人が必ず混ざっている。日本独自のやり方をこれから模索していくところだ。
Q5: ビジネスに携わった経験を持つ外部人材をどうURAに取り入れるのか?
A5: 大学が持ちえない視点を持った多様な人材群を確保するのが重要と考えている。一方大学の組織としての視点も持ちあわせてもらう必要がある。
講義を通じて
大学院生である私が最も身近に感じられるURAのお仕事は、授業中でも紹介のあった卓越大学院に代表される大学院生への経済支援事業の採択・拡充です。東京大学においては幅広い大学院生が何らかの経済的支援を享受しており、ひとえに野上先生をはじめURAの方々のきめ細かで優れたお仕事ぶりによるところと頭の下がる思いです。
これらURAの質の高い業務を可能にしているのは多様なバックグラウンド、専門性を持った人材の存在です。研究支援総括室においては、博士号の取得者や官公庁の出身者、さらには民間の人材も登用し協同して活動を行っています。こうした複合的な視点が組織としての柔軟性とともに外部機関との円滑な交流を促すのだと思います。
一方、運営費交付金が年々減少し、競争的資金の獲得が一部の有力大学に集中する今日の日本において、URAを雇用する余力のある大学は限られているとも感じます。有力大学のみがURAを活用して研究力を向上させ、大学間の格差がますます開くという結末に至りはしないでしょうか。また、民間の人材は大学の給与体系におけるそれよりも高収入を得ていることもしばしばです。この点において人材の流動性が阻まれているとも言えます。
URAという制度の果実を各大学が満足に享受するためには、大学のあり方そのものを考えていく必要があるように思えます。
柏 勇希(理学系研究科 化学専攻 修士2年/17期生)