連載エッセイVol.185 「参加することに意義がある?」 廣野 喜幸

2023-01-25

過日、科学コミュニケーション論以外の分野を専攻する友人たち数人と、お台場で開かれたサイエンス・アゴラをぶらついてきた。サイエンス・アゴラは、日本の科学コミュニケーション(以下、SC)の一大イベントである。他分野の研究者たちが異口同音に述べたのは、「SCはけっこうな賑わいを見せているのですね。いいことです。しかし、結局のところ、何をしたいのか、よくわからなかったですね」という感想であった。

ソニーの名機スカイセンサー5500(撮影は宮入克典氏による)

高校時代、ラジオは孤独な勉学を慰めてくれる友であった。使っていたラジオは、ソニーの名機スカイセンサー5500。

当時は、多くの国が日本語放送を短波で流しており(短波だと遠距離通信が可能になる)、海外放送受信(BCL) ブームに湧いていた。BCLブームのニーズに応えるため、スカイセンサーには短波受信機能が備えられていた。チューナーをこまめに調整し、「お、今夜はこの放送が聴取できたか!」といった喜びに浸ったものである。短波放送は大気状況等に大いに左右される。今夜聴けたからといって、明日も聴けるとはかぎらない。もちろん、放送内容も楽しみはするのだが、海外日本語放送の場合、受信できたこと自体が喜びの過半を占める。

参加して何をしたいかではなく、参加することが目的となっているような、オリンピックの理念のようなSC――「そうか、他分野の人びとからすると、SCはBCLの世界のように見えているのか……。やはり、それは問題なのだろうな」という思いのもと、2023年は、「目的意識の明瞭なSC」を目指すことに致しました。人材育成のみならず、情報発信や科学コミュニケーション論の研究も新たに行っていく所存です。次年度から生まれ変わる科学インタープリター養成プログラムをこれからもどうぞよろしくお願いします。

『学内広報』no.1566(2023年1月25日号)より転載