連載エッセイVol.184 「専門的助言をどう行うか」 横山 広美

2022-12-20

多くの構成員が、社会に対して専門的助言を求められる場面に数多く接しているのではないだろうか。専門的助言は必要とする場面や相手によって、同じ内容でも提案の仕方や選ぶ内容が大きく異なる。コミュニティ内、政府の審議会、あるいはメディアに対して、どのように専門知を用いた助言をしていくべきなのか。

アメリカの政治学者ロジャー・ペルキーは、特に政府に対する専門的助言を4つの領域に分けて説明している。中でも、政府が政策をまだ持っていない際に、政策オプションを複数提示する「誠実な斡旋者」が好ましいと考えているようだ。社会がどのオプションを選ぶのかは、専門家ではなく政治側の責任である。

研究者として譲ってはいけないのは、専門知に基づいている助言だろう。そもそも専門家が意見を求められる理由がそこにあるからだ。こうした態度は、時に科学主義だと揶揄されても重要である。同時に政治にはじかれず、かつ適切な専門知をインプットする難しさは並大抵でないであろう。第8波を迎えるCOVID-19(コロナ)でも、難しい状況が続いている。

コロナでは世界共通の科学知が広くオープンになっている。国内でも、一部の研究者たちがいち早く論文データや専門知を元に発信活動を続ける様子は大変心強い。それらのスタイルは、研究者の王道スタイルと言えるであろう。しかし日本の政策、いやそのはるか手前の科学的助言がそれに追いついていないケースが散見された。そうした中、こうした科学的不備を指摘する、政府への助言者集団の「外部」にいる専門家たちが活躍した。一例は最初に定着した接触感染の消毒手洗いから、空気感染を重視した換気に重点を置いたギアチェンジの推奨だ。ピルケーの分類では誠実な斡旋者ではなく、むしろ科学主義者に相当するかもしれない。しかも専門領域は必ずしも専門ではない。コミュニティの外からの方がむしろ助言しやすいという現実があるのかもしれない。

筆者の提案は、このような状況においては、専門を同じくする数名以上のグループで提案をすることだ。これを著者は「グループ・ボイス」と呼んでいる。

コロナについてはもともと最初から、政府に助言をする専門家集団の背景に、こうした先端の専門知をサーベイし、エビデンスを揃えるチームが学会のサポートなどを得ながら構成されるべきではなかったのかと感じる次第である。

『学内広報』no.1565(2022年12月20日号)より転載