連載エッセイVol.59 「なぜだろう、なぜかしら リニューアル編」 廣野 喜幸

2012-07-10

すぐれた副読本は科学リテラシーの向上にたいそう貢献する(はずだ)。かつて、そうした副読本の一つに、『なぜだろうなぜかしら』シリーズがあった。同シリーズは、小学1年生上→小学1年生下→小学2年生上→……といった具合に、学年が進行するにつれ、全12冊を逐次読み進めるスタイルをとる。私は同シリーズを買ってもらうのを楽しみにしていた。また1年成長した喜びを感じつつ。「へえ、世界はこうなっているのかあ」と無邪気に驚いていた当時は知るよしもなかったが、調べてみたところ、1955-6年に出版された同シリーズは、副読本なるジャンルの新機軸(の一つ)であったことが判明した。

同シリーズの特徴は二つある。まず、1問1答形式を全面展開していた。それまでの副読本はある程度の分量を読みこなすことが前提とされていた。次に、実際当時の小学生からの質問を収集し、答えることが基本とされた。現在、科学コミュニケーションには双方向性が大切だと強調されるが、ある意味でそれを先取りしていたのである。要するに、「ニーズ先行型の広く浅く方式」が時代の要請に合っていたのでしょうね。

1977年、同シリーズはリニューアルされた。では、リニューアルにあたって、「ニーズ先行型の広く浅く方式」はどうなったのだろうか。リニューアルで目立つ変更点は二つある。まず幼稚園から小学4年までの各2冊計10冊となった。次に、解答の文章の量が格段に少なくなった替わりに、漫画がつくようになった。それも担当はかの手塚プロダクションである。変わらなかった主たる点も二つある。1問1答形式は維持された。そして、質問項目・内容はほとんど同じである。20年ほど経ち、小学生から質問を収集しなおしても、ほとんど同じだったそうである。(へえ、そんなものか。)かくして、「ニーズ先行型の広く浅く方式」は生き延びた。同路線を維持しつつ、ビジュアル化をはかったのがリニューアルの内実であった。

ビジュアル版は1997年以降、「品切重版未定」が続く。旧シリーズの「寿命」は20年余、新シリーズのそれも20年余。「ニーズ先行型の広く浅く方式」は半世紀弱の長きにわたり命脈を保ったのである。ビジュアル化の功罪についてももちろん考察しなければならないが、より重要な問題は以下の諸点だろう。「ニーズ先行型の広く浅く方式」の賞味期限はすでに切れてしまったのか。そうだとしたら、新機軸は何か。新機軸はすでに試みられているのか。「大空位」時代が継続中なのか。これらについては、次回をどうぞお楽しみに。再見!

2012年6月25日号