連載エッセイVol.76 「台風接近に学ぶ防災リテラシー」 佐藤 年緒

2013-12-04

台風26号の接近で翌日の講義ができるか心配をしていた矢先に大学の担当係から「あすの1限は休講。2限以降は午前8時に判断するのでHPで確認するように」とのメールが入った。早めに注意を喚起し、当日朝の状況を見ながら判断するという二段構えの連絡である。結果は、駒場に強い風雨もなく2限以降は平常通り、夕からの授業に無事学生が顔を揃えた。

担当する科学ライティング演習では「ふるさとの安全と安心を伝える」をテーマにしていただけに、台風襲来は格好の題材だった。学生に前夜からの対応を聞くと、「休講なのでゆっくり寝ていた」「大学近くなので心配なかった」とのったりした反応。千葉から来る学生だけは「午前8時に『講義あり』と言われても2限に間に合わない」と交通マヒの影響を話した。

同じ東京都の伊豆大島では土石流災害が発生、大ニュースになった。大島町役場では町長と助役が不在で、留守役の総務課長ら職員はいったん帰宅し、その間気象庁からの土砂災害警戒情報のファクスに気づかなかったという。深夜に登庁して初めて分かったが、それでも避難勧告を出さなかったと新聞紙面で非難された。

午前3時すぎ時間雨量は120ミリを超えた。深夜に避難させても安全を確保できるか、町幹部が躊躇したとの報道もあった。時間100ミリ以上の雨とは、31年前、私が駆け出し記者だったころに長崎豪雨災害で体験したが、まさに天のバケツの底が抜ける雨。長崎県庁玄関ロビーには外に出られない人で溢れた。このような雨量になってしまっては身動きが取れないのは確かである。

早めの注意喚起がいかに必要か。町役場の対応へのメディアの一方的な批判は災害後の「後知恵」にも思えるし、メディアで働く者自身も、気象庁のさまざまな警報やレーダー情報から「やばいぞ」と事前に危険を察知し、伝えていたのだろうかと問いかけたくなる。

行政や大学の管理者は、気象情報に対してどういう要素を考慮して判断したのだろうかと学生に考えてもらった。台風や局地的な豪雨がますます多発化する昨今。国や自治体、そして民間で、人の命を預かる立場にもなる本学の学生たち。報道機関に限らず、自らが情報を読み解く力、自然の力を肌で感じる「防災リテラシー」を身につけてほしいと学生たちに伝えた。

2013年11月25日号