今期のプログラム受講生の間では、科学コミュニケーションにおける低関心層へのアプローチが話題になっている。私は以前、関西の短大で原発事故についての講義(一般教養的な枠で)をしたことがあるので、そのときの体験を紹介してみよう。短大にもいろいろあるが、勉強は嫌いでやんちゃな子が多い学校だった。1年目の授業の1週間前、「先生、来週原発の話するんやろ。難しい話嫌やわ。ビデオにしてや」と言ってきた子がいた。そこで福島事故のドキュメンタリー映像を見せた。15分後、振り返ると全員が寝ていた。
翌年度の同じ授業の回の前日、寝る時間を削って授業構成を考えた。「ビデオにして」というからには関心がないわけではないのだ。でも寝てしまうというのは「わからない」からだ。しかし、何がわからないのか。どういう説明の仕方なら彼女たちに届くのか。授業の最初に解説を入れることにした。
「原発事故が起きたら、①止める②冷やす③閉じ込める、が必要ってことになってる。福島事故は①には成功したんやけど、②に失敗して大事故になってしまったんや。そうすると③ができなくなって、みんなも聞いたことあるやろ、放射性物質が原子炉の外に放出されてしまうんや。放射線は体に悪い。アレに似てるんや。みんなも夏に避けたいやつあるやろ?ほら、お肌に悪いアレ、、、」「 紫 外 線 ! 」「そう!放射線にもいくつか種類あるけど、紫外線の強力な奴やと思ったって。で、紫外線はお肌の何に悪いって言う?お肌は生物学的には何でできてる?漢字2文 字 、、、」「 細 胞 ! 」「そう!紫外線もそうやけど、放射線は細胞のなかの大事なもんに悪さをしてしまうんや。みんな、細胞のなかにある大事なもんってなんや?こっちは英語3文字 、、、ディー、、、」「DNA! 」「そう!!放射線はDNAを傷つけるから、がんを起こしたり、遺伝に悪い影響がありうるんで恐れられとんや」「へー」ここからドキュメンタリーを見せた。今年はガイガーカウンターが鳴るシーンで「この音、放射線が飛んできてるのを測ってるわけな!」と解説。うなずいて画面を見る学生たち。ただし飽きないうちにと15分ほどで切り上げた。
ご専門の先生方からはお叱りを受けるような薄い内容だ。しかしこんな薄い内容にも、いくつか工夫がこらしてある。後日、「先生、あんときの授業、面白かったわ」と言ってもらえたのは、私の秘かな誇りだ。