先日、趣味で行っているスポーツの全日本大会で優勝した。久しぶりにマスコミの取材を受ける側になったのだが、媒体に応じて自分の話したいことよりも記事にしやすいことを無意識に選んで話しており、職業病だな、と苦笑した。私は理学部地球惑星物理学科を卒業後、朝日新聞の記者をしていたのである。自分に専門性が足りないのを痛感して大学院に舞い戻り、理学の学位取得後、縁あって2年前に始まったこのプログラムの専任講師をしている。授業には模擬記者会見なども取り入れているが、学生に「もっとバカな質問をして!」と注意することもしばしぱである。東大の学生は、最近、頭が悪くなってきたと言われようと、賢くて知的好奇心がある者が多い。授業では、ある学生に自分の研究で素晴らしい成果が出たという想定で記者発表してもらい、他の学生に科学記者として質問をしてもらうのだが、どうしても知的で科学オタクな質問に傾きがちである。つまり、自分の知的好奇心を満たそうとしてしまい、科学に素人な読者が知りたいレベルのことを聞かないのだ。これは、科学者側にも言える。記者が的を射た質問をして、高度に専門的な話ができると、非常に気分がいい。が、媒体に応じて、「難しくても正確な記述を重視するのか」「重要な研究というイメージを伝えるのが最重要なのか」など、自分で説明のさじ加減を変えられる方が、「取材者のレベルが低くて、自分の意図と違うことを書かれてしまった」と嘆くよりもストレスにならないはずである。今回、「勝因は?」という質問に、専門誌や専門番組に対してはテクニックについて思いの丈を話したが、地元紙には「最後までよく動いてくれました」程度にして、「素晴らしいコースだったので、来年もまた来たいです」とまとめた。見出しになりそうな材料も提供した。そのおかげか、美人とハンサムに写っている写真も大きく掲載してくれた。今日び、取材を受ける側も、多少の気遣いがあった方が得なのである。
2007年10月15日号