連載エッセイVol.219「サステイナブルAI、グリーンAI」 横山 広美

2025-11-21

AIを使うと、遠く離れたデータセンターで多くの電力が消費される。様々な試算があるが、Google検索の20から30倍の電力に相当するという報告もある。テキスト生成よりもイラスト生成により多くの電力が消費されるのは想像の通りだ。これがAI時代の新たな環境問題として注目を浴びている。これまで別々に研究をされてきたAI倫理と環境倫理がマージする、興味深い議論である。筆者たちの調査で、この件に関する認知度は韓国で51%なのに対し、日本では22%しかないことがわかった。

AIはすでに私たちの日常の一部、研究活動の一部になっている。もともと画像認識を使っていた方々も多いと思うが、生成AIが出てきてコードのバグ取りがしやすくなったという声も聞く。英文チェックはもちろん、調べものに使う教職員も多いと思う。教育にどの程度使ってよいかは議論が分かれるところだが、学生も日常的に使っている。つまり我々はAI利用の当事者として、この問題に一定の責任がある。

すでに今年、政府は第7次エネルギー基本計画にて、AIを含めた理由によって原発及び再生エネルギーを最大限に利用することを宣言した。東日本大震災および福島原発事故以降、社会は原発を使うことを否定したが、ウクライナ戦争以降の急激な電気代値上がりを受け、原発利用もやむなしと考える人が増えてきた。AI利用は思いもよらず、電力供給の源として原子力発電利用の問題にも発展する。

電力を消費するAIをサステイナブルにしていこうというドイツの倫理学者の呼びかけで、サステイナブルAI研究が始まっている。さらに具体化したグリーンAIというコンセプトも提示されている。グリーン by AIと、グリーン in AIがあり、前者はAIによってスマート農業などグリーン化を進める一方、後者はAI自体をグリーン化していく活動で、最近は富士通が電力消費を抑えたチップの開発に成功した。

スマホやノートPCで使う電力は小さいことから、AI利用によって大量のエネルギーや水を使っている実感は薄い。実感を伴った科学コミュニケーションが必要になっていくであろう。

(参考)
Cho, Y., Wang, S., Kinoshita, S. Yokoyama, H. Linking publicawareness to RRI pathways for sustainable AI: a survey fromJapan and South Korea. AI and Ethics (2025).
https://doi.org/10.1007/s43681-025-00822-5

『学内広報』no.1600(2025年11月21日号)より転載