乗り物は好きだろうか。私は以前、そこまで関心があるほうではなく、もっぱら移動手段として利用していた。しかし今では、電車や飛行機、船などを写真に収めたり実際に乗ったりすることが楽しみになっている。きっかけは、生産技術研究所の次世代育成オフィス(Office for the Next Generation: ONG)で、中高生向けのワークショップを企画するようになったことだ。鉄道や航空に関わる企業や研究者の方々から専門的な話を伺ううちに、乗り物の背後に広がる科学技術の奥深さに魅了されるようになった。
ONGでは、未来社会をデザインできる次世代の育成を目指し、さまざまなSTEAM教育プログラムを展開している。STEAMはScience(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Arts(芸術・リベラルアーツ)、Mathematicsの頭文字をとったものである。STEAM教育は、知識を学ぶだけでなく、それらを組み合わせ、実社会の課題の発見や解決に活かす力を育むことを目的としている。特に、Aは芸術にとどまらずリベラルアーツも含み、科学を社会の文脈と結び付ける役割を担う。
現代の社会は、急速な技術革新や地球規模の課題、多様な価値観の共存など、不確実性に満ちている。こうした時代を生きる次世代は、知識を学ぶだけでなく、自ら問いを立て、探究を通して最適な解を考える力が求められている。
STEAM教育を通じて育むのは、未来を生き抜く力であり、「未来を共に創る力」でもある。子どもたちや学生たちが主体的に挑戦できる環境を整えることは、科学技術コミュニケーションの実践であり、知を社会へ橋渡しするインタープリターの役割とも言える。その役割を果たすとき、不確実な時代を切り拓き、よりよい未来社会を共にデザインしていくことができるのではないか。そのようなことを考えながら、今日も満員電車に揺られている。
