1999年6月末、21世紀を目前に、世界中の研究・教育機関、学界、産業界、政府機関、マスコミなどの代表者がドナウ河に面した美しい町ブダペスト(ハンガリーの首都)に集まり、世界科学会議( WCS)が開催された。ICSU(国際科学会議)とユネスコの共催によるもので、科学が直面している様々な問題についてその理解を深め、戦略的な行動について討議し、最終日の7月1日には「科学と科学的知識の利用に関する世界宣言」を採択した。「我々のすべては同じ惑星に住み、我々のすべてはその生物圏の一部である。我々が相互依存性の高まりの中におかれているということ、そして、我々の未来は、全地球的な生命維持システムの保全と、あらゆる形態の生命の存続とに不可避的に結びついているということが認識されるにいたっている。」ではじまる格調高い前文に続き、科学の使命として、4つが掲げられた。これまで科学は1.知識のための科学:進歩のための知識 2.平和のための科学、3.開発のための科学という位置づけであったが、それに加え、4.社会における科学と社会のための科学が加わり、このため、この宣言は歴史的なものになった。
昨年11月、ブダペスト宣言10周年を記念して、世界科学フォーラム(WSF)が「知識と未来」をテーマに、ハンガリー科学アカデミー、ユネスコ、ICSUの共催により再びブダペストで開催され、科学者、各国政府関係者、国際機関関係者、ジャーナリスト、非政府組織など92カ国から約800名が参加した。過去10年の解析、未来展望、科学と生態系サービス、科学外交、研究資金、科学と女性、科学と若者、サイエンスコミュニケーションなど幅広く議論された。
確かにこの10年間で、科学技術は一層進展し、その結果、社会構造も大きく変化した。インターネット、携帯電話により、誰でも即座に世界とつながり、情報を受信・発信できるようになり、グローバルな知的競争と知的分業に拍車がかかるようになった。ライフサイエンス、バイオテクノロジーの進展もめざましく、医療・農業などに応用されつつある。このように、科学は社会の中によりいっそう浸透し、科学を好きか嫌いかなどと言っていられなくなった。
1996年から提唱してきた「社会と科学の双方向性の架け橋としてのインタープリター」の重要性はいっそう増していることを、99年と昨年のブダペストでの会議に参加して再確認した。2005年に科学技術振興調整費の支援を受けて始まった科学技術インタープリター養成プログラムは5年の期間を終え、いったん終了する。しかし私たちは、このプログラムを正規のカリキュラムとして定着させ、大学院生対象のコースのほかに、教養学部の3,4年生などにも広げていく所存で、現在、準備を進めている。より多くの皆様の参画とご支援をお願いします。
2010年3月 8日号