科学技術インタープリター養成プログラムは東京大学大学院のための副専攻プログラムであり、大学院生のリベラルアーツ教育の1つである。リベラルアーツ教育とは、人間が独立した自由な人格であるために身につけるべき学芸のことを指し、知のプロフェッショナルとして柔軟かつ責任ある思考ができる素地を培う教育を指す。
東京大学には、大学院共通授業科目:エグゼクティブ・プログラムがあるが、昨年度のプログラムで「科学者の社会的責任」を題材にリベラルアーツ教育を実施してみた。法学政治学、医学、工学、理学、農学、経済学、総合文化、情報理工学などの研究科の院生90名ほどの授業で、まず専門家の社会的責任についての講義を50分ほど行ったあと、院生を小グループに分けた。いくつかの質問についてグループで議論し、各グループからの報告を皆で共有する、ということを3回繰り返した。大学院生からは、「自分自身の研究が社会にどのような影響を与えるかを正しく認識しようともしていなかったことに気づいた」「普段接しない人と話すと意外な発見があった」「大学院生としての責任を考える貴重な機会となった」などの感想を得た。
大学院生むけのリベラルアーツは、東京大学においても今まさに構築の途中である。高度な専門性を身に着けつつある大学院生たちの議論は、具体性も高く、時に抵抗も大きく、しかしながら時に考察も驚くほど深く、このような授業を設計する意義を感じさせてくれた。
上記のような授業は、実は研究倫理教育にも役だつ。研究倫理教育とは、べからず集を学習すること以上に、「自らの研究が社会にどう埋め込まれるか想像できる力」(社会的リテラシー)の育成が重要である。この想像力があってはじめて研究不正が社会においてもつ意味と、発覚したときの重大さを予測できるからである。上記の大学院生レポートに「自分自身の研究が社会にどのような影響を与えるかを正しく認識しようともしていなかったことに気づいた」とあるように、そのような想像力を身につけるためには、いつも話している研究室の集団以外の人間と話をすることが不可欠となる。
2018年9月21日号