連載エッセイVol.135 「SNS時代の科学コミュニケーション」 鳥居 寛之

2018-11-08

最近、異分野の研究者と共著の論文を初めて世に出した。医学や生物学、情報科学の人たちと、化学専攻に所属しつつ物理学者たる私の、コラボである。福島原発事故の際は放射線を巡って日本中が大騒ぎをし、リスクについて様々な意見が対立した。コミュニケーションはどこでなぜ失敗したのか、それを探るべく、当時のtwitterデータを解析しているのである。

ネットワーク解析、テキストマイニング、クラスター分析、機械学習、ビッグデータ。自分で解析できるわけではないが、流行りの情報処理をそれなりに学んだ。大学の良いところは、自分の専門外のことでもいつでも勉強できる環境が整っていることである。ちょっと別の建物に足を踏み入れる勇気さえ持てば、その道の専門家の講義やシンポジウム講演を聴くことができるし、学際的な共同研究の可能性だってある。そもそも私が科学技術インタープリタープログラムに関わるようになったのも、そうした異分野交流がきっかけだった。人と人とのネットワークを大切にしたい。

世界はどんどん進化し、そのスピードを増している。情報は地球を駆け巡り、ボタン一つで誰とでも繋がる。それと同時に、情報の断絶も簡単だ。交わりたくない相手とは関わらなければそれですむ。画面にはお気に入りの仲間しか表示されないのだから。

我々の論文の結論はこうだ。ツイート全体の半数を占めるリツイートは、フォロワー数の多いほんの一握りのインフルエンサーの投稿を元に転載したものが支配的となって拡散している。事故後の早い時点で、科学的事実に基づいて発信したグループと、感情的に批判的投稿を繰り返したグループに分かれ、同種の意見には同調するが他方とは交流しない。そこに分断が生まれてしまった。そして政府や科学者が信頼を失った当時の風潮の中、科学者らは多勢に無勢、後者の素人集団が大勢を占めるに至った。

自然言語処理とネットワーク解析とから導き出されたこの結論は、当時の放射線問題に取り組んでいた現場の肌感覚とも一致する。

論文が掲載されるや、かなりの反響があった。twitter解析の論文の情報がtwitterで瞬く間に拡散した様は、次の論文のネタにでもなるかもしれない。

今後さらに重要度を増すSNSをどう活用すれば、科学的に正しい情報を多くの人に伝えて納得してもらえるのか。科学者間の連携はどうあるべきか。我々に課された難しい宿題である。

2018年10月25日号