連載エッセイVol.145 「日曜日に新聞を」 松田 恭幸

2019-09-05

海外で新聞を買おうと売店に行ったとき、新聞の厚さに驚いたことがないだろうか。特にアメリカやイギリスの日曜日の新聞の厚さは格別で、日本の新聞の元旦号のようなインパクトがある。イギリスでは日曜日は日刊紙の The Times や The Guardian は休刊日で、代わりに独立した編集部を持つ姉妹紙の The Sunday Times や The Observer が発行される。日曜紙の本体も付随する別冊も分厚く、これを週末にじっくりと読むのが、イギリス滞在中の私の楽しみの一つだったりする。

日曜紙の紙面づくりは日刊紙とは方向性が少し異なっている。日刊紙と同様に、前日に起きた出来事が本誌の紙面で報じられるのはもちろんだが、例えば地球温暖化の影響で外来生物が定着しつつあり、イギリスの固有種が危機にさらされていることを訴えるといった記事も、多くの写真入りで紙面の1面以上を使って掲載されたりもする。政治家や有識者へのロングインタビュー記事や時事情勢についての解説記事も多い。本誌についてくる別冊には、書評や演劇・コンサート・映画・テレビドラマなどへの批評が毎週20ページ以上も掲載されているし、特定のテーマの特集が延々と(?)組まれている別冊が付いてくることもある。イギリスの日曜紙は価格が日刊紙より高いにも関わらず発行部数は姉妹紙よりも多く、取材に時間をかけた記事を読むために、普段は新聞を買わなくても、日曜日だけは新聞を購入するという人が一定数いることが分かる。

日本でも朝日新聞の Globe に代表されるように取材記事を重視した別冊を拡充しようとする動きもあるが、残念ながら現時点では必ずしも成功しているとは言えないようだ。しかし、速報性でも携帯性でも優位性を失った新聞に強みが残るとすれば、多くの優秀な記者に支えられる取材力だろうし、その取材力を最も生かせる場は、忙しい平日の朝に読む日刊紙ではなく、日曜紙や別冊の日曜版だと思う。日本でもゆったりとした気持ちで新聞を広げ、数時間かけて記事を読むような週末を過ごしたいなぁと思う。そして、そうした紙面の中に、しっかりとした取材に基づく良質な科学記事も大きな存在感を持っていて欲しいと思う。

『学内広報』No.1525(2019年8月26日号)より転載