連載エッセイVol.178 「データ化できない評価指標」 大島 まり

2022-06-24

専門のバイオメカニクスの研究の傍ら、研究成果を初等中等教育に活かそうと科学技術・STEAM教育に長年にわたり取り組んでいる。そのためか、最近、大学教員・研究者向けに探究活動について話す機会が増えている。今年度から、新学習指導要領の高等学校課程への本格導入に伴い、「総合的な探究の時間」や「理数探究・基礎」の授業がはじまり、研究者が高校での探究学習に関わる機会が増えているからだろう。

先日も、某大学から私が所属している生産技術研究所の次世代育成オフィスの取り組みについての講演依頼を受けた。オンラインでの発表後、質疑応答の時間となった。真っ先に受けた質問は、「このような活動は、教員評価にどのようなメリットがあるのでしょうか」。同様な質問はほば毎回、受ける。教員の科学技術コミュニケーション能力の向上に役立つ、等々、アンケート結果に基づいて答えた。しかし、参加者があまり納得していないことが画面越しからも感じる。とほほ。。。もっと客観データで有効性を示すことができたらと、アンケート調査の方法を工夫したりと試行錯誤しているが、明確な回答がなかなかできない。

そうしたら、先日、同じような悩みを抱えている人に出会った。弁護士のカタリーナである。厳密に言えば、物理的に出会ったのではなく、「スーツ」というドラマの中である。ちなみに、「スーツ」は英国王室メーガン妃の出世作である。日本版スーツも制作された。

カタリーナは、所属しているAssociateのリストラをかってでる。パティという業績評価のプログラムを使って10名を選ぶ。しかし、そのリストの中には上司が高く評価しているブライアンの名前が。上司は評価指標を変えてでも、彼を残すように命令する。優秀で良い人なのだが。指標を色々と変えて評価し直すが、彼の良さを示すことができない。ところが、あることから彼が優秀なTOP5全員のAssociateをサポートしていることがわかり、勤務時間などの客観(Objective)データだけでなく、形のない(Intangible)な要素も考慮する必要があることに気づく。

研究者が初等中等教育に関わることの有効性や意義の高さなどは理解できるのだが、というのが大方の意見である。しかし、より多くの研究者がSTEAM教育に参画するためには、概念的な感覚だけではなく、評価にプラスになることを具体的に示すことは大事である。番組の中では、カタリーナがIntangibleな要素をどのような形で評価に入れたのかは語られていない。私達の試行錯誤は続く。

『学内広報』no.1559(2022年6月24日号)より転載