環境省のプロジェクトで、SNSの時代において放射線の科学的なリスク情報をいかに効果的に伝えるか、医学者や情報学者ともタイアップして研究している。昨年度まとめた提言には、Twitterにおける情報伝達の特性を理解して、科学的情報発信をするインフルエンサーをサポートする協力体制や、科学者・学会間の連携が重要だと結論づけた。影響力の大きい科学者には誹謗中傷や脅迫が届く現実も直接インタビューで聞いた。覚悟して情報発信する人を守る体制も必要だ。
根拠や判断過程を添えた迅速な情報発信が肝要で、ファクトチェックにより非科学的情報を打ち消す一方で、偏りのない様々な意見の見える化が求められる。いわゆる統一見解は信用されず、正しいことが伝わるという科学者の思い込みは幻想に過ぎない。
先日、本郷理学部で放射化学会の討論会が開催された。3年ぶりの対面での学会は大盛況であったが、なかでも福島県の高校生・高専生による発表が印象的だった。復興のために、震災遺構の役割や中間貯蔵施設の将来について、自分たちが積極的な情報発信を行うとの若き熱い思いが伝わってきた。ALPS処理水に関する情報提供について考察したチームは、当事者である電力会社が科学的に正しい発信をしても信頼されず、中立な専門家や学会の役割が大切であるとし、将来を担う若者に知ってもらうためには、権威ある老人の言葉では響かず、身近な先生や、SNSからの情報が受け入れられやすいとの分析を発表していた。文字よりも動画が好まれること、そして、ホームページのようにただ掲載する媒体ではみんなが見るわけではないので、プッシュ配信されるSNS(Twitterは中年向けで、若い層にはLINEやInstagramなどでアプローチすべきとのこと)を活用し、欧米のようにセレブが社会的責任として自発的に発信して影響力を発揮すべきだと結論づけていた。つまりは、大人の科学者が考えているような堅苦しい情報提供は誤認識による自己満足で、若い世代にアピールするやり方にシフトする必要がある、と手厳しいが、まさに的を射た指摘で感心した。
数年前にリスクコミュニケーションの大家の先生が、Twitterは変人がやるものだから世相を反映していない、と我々の研究成果を評したことと併せて鑑みるに、そろそろこの国も、未来を担う若者に目を向け、彼らの意見をもっと尊重した方がいいのではなかろうか。これから情報発信を実践するプロジェクトにおいて、大いに参考にしたいと思った次第である。