先日、とある中学校にて出張授業を行った。その時に聞いた会話である。
生徒1「先生、トイレ!」
先生「授業始まるから、急いで」
生徒2「先生はトイレではありません」
さて、この会話について、皆様はどのように感じただろうか。生徒1と先生とのやりとりは日常的によくある、違和感のない会話のように感じられるが、生徒2 の言葉を聞いて、私自身ハッとさせられた。生徒1 の言葉は「先生、私はトイレに行きたいです」という意味であり、先生もそれを理解して「授業が始まるから、急いでトイレに行ってきて」という意味で返答している。一方、生徒2は(会話の意味を理解しつつも)生徒1の発言は異なる意味でも捉えられるということを指摘したのだと考えられる。このように、背景や状況など共通認識がある人同士であれば、省略した言葉で会話をしても互いに理解できる。しかし、共通認識がない人同士の場合は、異なる意味や誤解を生まないよう、配慮することが大切だと言える。
これまでに、私は様々な科学技術コミュニケーション活動に関わらせていただく機会があった。その際は、専門分野やコミュニティーの異なる人々とのコミュニケーションとなることが多い。そのため、相手の背景や持っている知識は自分とは異なるという点を配慮する必要がある。こういった配慮は、異分野融合が進む研究生活においても極めて重要だと考えられる。論文や学会発表において、読者や聴衆に伝わるように表現し、同じ分野のみならず、異分野であっても明確な情報交換をすることが求められている。
この中学校での出来事は、日常生活の身近な人に対しても「この言葉で伝わるだろうか」と相手のことを思慮する大切さを再認識する機会となった。そして、その直後の授業では、いつもより丁寧に言葉を選んでお話しした(つもりである)。
このエピソードの学校ではないが高校生向けの講義の様子。
『学内広報』no.1564(2022年11月24日号)より転載