連載エッセイVol.200 「コミュニケーションの中の科学技術」 梶谷真司

2024-04-23

福岡県大牟田市に通称「ポニポニ」という団体がある。正式名称は「大牟田未来共創センター」で、原口悠さんと山内泰さんを中心に活動している。

彼らの活動の一つに、VR(ヴァーチャル・リアリティ)を活用したものがある。VR旅行の映像を介護施設の高齢者に見せて楽しんでもらうプロジェクトを進めている東京大学先端科学技術研究センターの登嶋健太氏の協力を得て、さらに大牟田市生涯学習課、地域の高齢者施設「延寿苑」、地域創生Coデザイン研究所、NTTと連携している。これは一つの産官学民の協働だと言えるが、その中身が面白い。

撮影をするのは、地元の元気なおばあさん、おじいさんたち。講習会を開いて360度カメラの使い方を覚える。最高齢は91歳である。大学生を含めて若い人たちも加わり、行き先も高齢者と相談し、一緒に撮影に行く――駅で新幹線を見送る、お寺でお参りをして、住職の話を聞き、境内にいる猫に餌をやり、紙風船で遊ぶ、等々。自分で映したり映してもらったりした映像を若い人が編集して動画が完成する。

私が行った日は、おばあさんたちが実際にゴーグルをつけてお互いの作品を視聴し、動作確認をしていた。

ノートパソコンで作業をしている人の周りに立ったり座ったりしている人がおり、その中にゴーグルをつけている人がいる様子

あとでみんな一緒に施設に行って利用者の高齢者に見てもらい、説明するらしい。時代を共にしてきた者どうし、思い出話で盛り上がる。施設の高齢者はとても喜び、撮影した人たちもうれしくなって、また撮影して見せたくなる。こうして元気に動ける高齢者も、外出することが難しい高齢者も元気になる。若い人も一緒に活動し、世代を超えたコミュニティが活気づく。

ここでVRはたんなる福祉に役立つテクノロジーではない。一人一人の力を引き出し、人と人をつなぎ、そこで個々の人が自らの存在意義を見出す触媒となっている。科学技術コミュニケーションというより、「コミュニケーションの中の科学技術」である。

しかもここでは、信頼できる関係が先にできていて、そこからみんなでアイデアを出して楽しみながら進めていくという、産官学民の見事な連携を見ることができる。

『学内広報』no.1581(2024年4月23日号)より転載