Re:Logergist(2023) 放談「温泉について」

2023-08-31

「Re:Logergist」とは

グループでの討論を経て科学(学術)エッセイを書く企画です。日常を描写する科学エッセイを書き続けた物理学者の集団、「ロゲルギスト」の再現・再解釈を目指します。

科学(学術)エッセイ執筆を学ぶ授業として、Sセメスター『科学技術表現論Ⅱ』(担当教員:内田麻理香 特任准教授)を開講しています。

Re:Logergist(2023) 放談「温泉について」

2023年度のRe:Logergistの放談のテーマは、温泉です。「わざわざ温泉に行かなくても、スーパー銭湯で十分では?」というのが、YKさんの主張です。

YK:個人的には温泉に浸からなくても大きなお風呂に入るだけで、たいがいの満足は得られると思ってます。お風呂が大きいことが大事で、たぶんスーパー銭湯のお湯にちょっと匂いのあるものを入れられたら、「これは温泉」って言われても多分僕は納得すると思います。

温泉の効能と入浴剤

YK:温泉についてはいろいろ語りたいことはあります!
例えば、入浴剤。僕のラボに温泉ソムリエをしている助教がいて、彼と入浴剤の話をしたのですが、家庭用の入浴剤というのは温泉の効能と言われている塩(えん)の成分のうち、本物の温泉の10分の1ぐらいの量しか入ってないらしい。これには理由があって、家庭のお風呂のバスタブは、温泉ぐらいの濃い塩の濃度になるとすぐに腐食しちゃって耐えられないので、それで塩の量を本来の10分の1ぐらいにしてるらしいです。だったら、家庭で温泉を楽しむならば、入浴剤を10倍の量入れたらいいじゃんって話になったので、今度自分のうちで試しに10倍入れてみようとも考えています。

HI:家でも私は入浴剤をよく使うのですが、それは何か効能を求めてるのではなく、香りとかを求めてですね。うちで使ってるドイツの入浴剤ですが、これは結構ハーブなどの香りが良くて、好きで入れるんですけど。このパッケージには効能は書いていないのですが、香りの成分が書いてあります。

一方で、「どこどこの温泉」みたいな日本の入浴剤は、家族が好きで、これも入れます。こちらの入浴剤には、効能が書いてあって、あせもとか打ち身、くじきとか肩の凝りとかいっぱい書いてあって、これには薬用入浴剤って書いてあるんです。一応、薬用入浴剤っていうカテゴリーなものとそうじゃないものっていうのが区別されて売ってるのかなって思ったんですけど。
 私の場合、あんまり家で効能を求めては入れないので、外で温泉浸かる時は体に良さそうとか思うんですけど、家で入れる時は香りを楽しむためって感じですかね、何をもって効能なのか分からないし。

YK:例えば「肩凝り」って、薬用の入浴剤で効能で書いてある。

HI:よく書いてありますよね。

YK:このあたりの効能は、間違いなく温かいお湯に入って浸かるだけでも効果があるだろうなって思ってます。

やはり、温泉の効能というものに納得がいかない……。

HI:そうですね。効能としてよくある、肩凝りとか冷え性とか腰痛とか、何か温かいお湯に入るだけで解消されそうなものですよね。

YK:あと、温泉のお風呂はやっぱり大きくて気持ちいい。肩凝りとかある人が単にお湯入った時考えても、やっぱり広くて眺めのいいとこに入ったほうが効き目があるんですかね。でも、眺めがいいって言ったらスーパー銭湯に描かれている富士山を見るだけでも、だいぶ気持ちいいんですけど、普段のお風呂と違って。その辺の気持ちの問題でやっぱり、普通のお湯に入るだけで効き目のある疾患であっても、眺めが良いかどうかで効き目が違うんですかね、気持ちの問題というか。なんていう話も温泉ソムリエの助教としました。

ME:温泉で怪しいな、って思うところは、温泉と普通のお風呂での有意な差があるかどうかを比較していないところですかね。お風呂にはない、「美肌になれます」という効能は、それが本当にデータとして正しいのかを言うべきかと思いますね。

YK:例えば薬を販売するとき、具体的な効き目のあるものとして、例えば厚生労働省の認可を受けて薬を販売するとなると、皆さんご存じのとおり結構しっかりしたクリニカルトライアルをやる必要がある。おそらく温泉でそれはできない以上、はっきりしたデータは取れないんだろうという気もします。

HI:薬じゃないですもんね。効能の記述における決まりとか、食品は何%以上含まれていたら書いてもいいとか決まりはありますが、そういうのは温泉にはないですかね。

YK:ない。もしかすると、いっぱいいろいろ疾患並べておいて効き目があるとか、大々的に宣伝しておくといわゆるブラセボというか、効き目があるんだって思いを持って行く人が増えてくるから、実際にそれに従って効き目も出てくるんじゃないかって気がしてて。改めて考えると、温泉そのものの効能ってそんなにないような気もしたけど、やっぱり温泉の効能を大々的にうたうことで、それにつられて効き目があるんだと思って気持ちの面でも行ってみようっていう気になって。

そういえば、最近の薬は、生活習慣病とかいろんなものに対する薬がいっぱい出てきて薬の効き目が上がってる。効き目がないものを渡して「これ薬だよ」って言って飲んでも、実際に効果が出ることがあるという研究が、ここ数十年あるそうです。効き目があるはずだから飲んでるんだっていう思いを持って何かやること結構大事で、うそでもいいから何か効能をいっぱい書いて効き目があるって大々的に宣伝することで実際に効いてくるというか、いいことあるんじゃないかなって、今勝手に思いました。

HI:そうですね。それによって悪影響が出るっていうことならまずいけれども、そうじゃないですもんね、温泉や入浴剤の場合は。

ME:日本温泉協会のサイトの、温泉の医学的効果や科学的根拠を説明しているページがあって。

https://www.spa.or.jp/onsen/4790/
温泉の医学的効果とその科学的根拠とは!?|日本温泉協会 温泉名人

この効果の中には、普通にバスタブのお湯で足りるんじゃないのっていうものと、温泉の10分の1の成分の入浴剤が入っただけのお風呂だと効かないのかなっていうものもあります。温かいお湯に浸かると良いっていうのは、完全に温泉じゃなくても良いのかも。

サウナ

ME:サウナ、一回も入ったことないっていう方っていらっしゃいます?

KK:サウナは入ったことあるんですけど、その後の水風呂が理解できなくて。私は、すごい昔の感覚の人なんで、心臓を大事にしなさいみたいに思ってしまうんですけど、どうなんですかね。みんな水風呂に入って「整った」って言ってるじゃないですか。

YK『科学コミュニケーション論の展開』っていう教科書があるんですけど、あの本に「素朴自然科学」という説明があって、これはみんなが日常で感じる、素朴に感じる形で自然を理解する体系のことで。それに対して、近代の論理で積み重ねでできた科学で、自然を理解する「近代自然科学」というのがあって、この2つのギャップが大きいという話がありました。
 多分水風呂に入る習慣っていうのは、どちらの自然科学をもってしても僕は全く理解ができないと思うんです。体にも良くないし心臓にも良くないしあれは何がいいんですかね。ラボにも何人か好きな人いるから、あんま大きな声で言えないですけど。

ME:寒暖差がどういうふうに心臓に悪いか、詳しくご存じの方いらっしゃいますか。

HI:でも、本当に悪かったら、サウナは銭湯や温泉に多分併設されてないですよね。確かに危険な感じはしますけど、すごい熱いものと冷たいものと。でも、割とどこの温泉にでもあるってことは危険だったら何かもう排除されてる気がするので、それなりに意味がある行為ってことなんじゃないですか。

KN:前に、テレビでサウナ特集みたいな組まれてるのを見た記憶があります、細かいこと覚えてないのですが。僕もサウナ入ったことあるんですけど、耐えきれずにすぐ出ちゃったりして、ちゃんと入ったことはないです。サウナに慣れてる人がちゃんとサウナに入ってある程度の時間、多分適切な時間、長すぎても短すぎても駄目だと思うんですけど、適切な時間入った後に水風呂に入るとすごい気持ちいいみたいな。普通、何か暑いところから急に寒いところに入ったら寒く感じるだけじゃんと思っちゃうんですけど、サウナに関しては、適切な時間サウナに入った後に水風呂に浸かると、何か温かいような心地いいような感覚になるという説明を、そのテレビで見たと思います。記憶が曖昧なんですが。

ME:その感覚になるのは私も同意で、8分ぐらいサウナにいて水風呂に1分、水分補給っていうのを2ローテぐらいするとですね、元々、水泳部で冷たい水に入るの慣れてたのもあるんですけど、日焼けした肌に冷たいジュースの缶を「ぺっ」てくっつけるのが気持ちいいなみたいなののエクストリーム版みたいな感じはあります。でも、心臓にもし良くない側面があるなら控えようかなって思い始めたところです。倒れるほど長くはいないけど、ある程度我慢してからその環境から解放されるっていう爽快感は貴重なものだと私は思ってます。

KN:いま、適当にネットで水風呂の効果みたいなのを調べたら出てきたんですけど、一応心臓病の人とかは避けたほうがいいと書いてあります。

HI:サウナがそんなにはやったっていうのは何なんですかね。やっぱり気持ち良さとか癒やされたいみたいな。あんまり地方の温泉まで行けないけど、近くのサウナで。

ME:サウナが好きな友人は例えば気持ちいいから、整う感じが気持ちいいから行ってると言うんですけど、それは何ですか、お酒とか嗜好品とかと同じような感じなんですかね。適度にやればよい。

HI:みんなやっぱリラックス効果とかストレス解消を求めてみたいな感じで書いてあるから。でも、YKさんのように温泉が好きだからといってサウナが好きじゃない人もいるし、求めるものがちょっと違うのかな。広くもないですからね、サウナ。個室サウナとかもはやってますし。

KK:屋外のテントサウナで温まってから川に飛び込むとかありますよね。それはまた何か露天風呂的な要素がありそう。

HI:確かについ最近行ったキャンプ場でちゃんとサウナがテントで作られてて、キャンプでも結構はやってる感じがしました。体を温めるというのは気持ちいいのかな。確かにずっと温泉に浸かってたらちょっとぼうっとしちゃいますけど、外気にあたったことで気持ち良さをまた感じるっていうか、外に空気に触れて。その緩急がいいというのは何となくありますかね。ずっと温泉の中にいるよりも出た時の気持ち良さみたいな解放感。

KK:スーパー銭湯とか、屋外のところに椅子とかあったりするじゃないですか。あれは理解できますね。あれに座ってる感じは。

ME:サウナじゃなくても、熱い風呂と冷ためのお風呂を交互に入るのを奨励するのは銭湯でも見掛けます。サウナは家では体験できない、入浴剤とは違って。そこが温泉と結構違うところではあるかもしれない。

HI:行かないとサウナは体験できない。何か浴室サウナモードみたいなのがついてるマンションありますけど、ちょっと違いますよね。

温泉で肌はきれいになる?

KN:皆さん、温泉入って、普通に家でお風呂入るより何か気持ちいいって自分の感覚で感じることってありませんか。僕は、結構家でお風呂入るよりも効果ありそうだなって感じることがあります。泡出る温泉ありますし、炭酸とか含まれているお湯だったら、なんとなく肌きれいになりそうだと感じるんですけど。
 自分の何となくの感覚というのはちょっと非科学的ですけど、どうですかね。少なくとも肌がきれいになる点に関しては、効能あるかなって思ったんですけど。肌がきれいになるとうたってる温泉に関しては実際自分も入ってみて、お肌すべすべになってたりしたことは何回もあるんで。肩凝りとか腰痛が治るかどうかはちょっとわからないです。そもそも年齢的にも肩凝りとか腰痛になったこともそれほどないので、それが改善したって感覚はわからないですけど。肌に関しては、結構きれいになったかなっていう感覚はあります。

ME:なるほど。炭酸泉とか入ると確かにきれいになった感じはします。でも、温泉に入ることは、持続できないところが問題なんです。
温泉に1回入ったら、あと1年は大丈夫みたいなことはあんまりないじゃないですか、お肌。

KN:それは、その後自分がちゃんと手入れしないと。一回、温泉入っただけで魔法のように一生肌がきれいにならないのは、一度、化粧水つけたからって一生肌がきれいになるわけじゃないのと同じですよ。温泉入った後もちゃんと欠かさず手入れ。だから、温泉に入らなくてもきれいになる程度の効能だとは思います。確かに温泉入ったから肌きれいになったというよりも、ちゃんと顔洗ってもあんま変わんないような、ちょっといい洗顔料とか使えば同じように顔はきれいになる。温泉だからこそなのかどうかは、ちょっとよく分かんないですけど。

ME:化粧品と温泉は似てるかもしれないですね。上は青天井だけど、別にあまりめちゃくちゃ高いのを使ったからといって効果が金額に比例するわけではないかもしれないというところが。

KN:温泉に入ったからこその効能っていうのがあるのかどうかは、わからないです。でも、洗顔料とか使う手間がかからないで、肌がきれいになる温泉だったら、それは十分に温泉ならではの効能といってもいいのかなと思ったりします。

KK:温泉で肌がきれいになるっていうのは結局、角質が取れるってことですよね。

KN:わからないですけど、何となくすべすべになってるなみたいな。普段お風呂に入ってもこうならないなという経験は何回もあります。

ME:温泉に浸かっているだけで肌がすべすべする気がします。多分角質が落ちてるんだろうみたいな。

KN:そうですね。多分そうなんだろう。もしかしたら実は温泉の成分の何かが、色々ついてるだけかもしれないですけど、石灰的な何か?わからないですが、何となくすべすべになったなという気はしました。

温泉でしか得られないもの?

YK:温泉とかスーパー銭湯になると、普段、距離のある人でも服を着て入れないわけで。守備力ゼロでみんなその辺を歩き回ってるので、距離感が近くなった感じがして話も弾みますよね。その辺が、開放感もない、いわゆる普通のお風呂との違いとしてあるのかなと思います。

ただ、ちょっとまた主張しておきたいのは、やっぱりスーパー銭湯で十分だと思ってるんです。天然温泉にこだわる必要がどこにあるのか。同じ景色をつくって、お湯だけ天然温泉とスーパー銭湯の違い。何ならスーパー銭湯のお湯にちょっと温泉の粉を濃いめに入るとどうなんだろう、何か違いがあるかなっていう元の問いに戻るんですけど、それについて皆さんの意見を聞きたくて。

ME:私、スーパー銭湯っていい自然の中にあるイメージがないんです。自然の景色を見られるところにスーパー銭湯をつくるって何かもったいなくて、もう少し別の施設が建っちゃうのかなって思います。露天の景色を見ようと思ってそこに水を引いたら、大体そういうところの水は何かしらの温泉に似た化学成分が入ってそうで、すごい景色の良いところにスーパー銭湯はないのかなと思ったりしたんですけど。

YK:そうなんですかね。温泉ってめちゃめちゃ深く土地を掘るイメージあるんですけど、何かバーって掘っていっぱい掘って、ようやく当たったって言ってるイメージがあって。そこまで頑張るならもうええやん、全然、普通に水道の蛇口ひねって温まった水取ってきて、「当館では天然温泉の粉を利用して営業しております」って、小さい文字で書いとったらいいんじゃないですかね。ちょっとそれもう、うそになるか。

HI:やっぱ温泉に求めるものが、本当に熱くて広いお風呂に入れればいいっていう、都内でもいいっていう人と旅とセットで何かちょっと都心を離れて田舎に行って入るって、そこを求めるものがやっぱりちょっと人によって違うんだろうなっていうのはありますよね。広いお風呂に入って癒やしを求めるだけだったら、都内でも気軽にそういうスーパー銭湯みたいなのに入ればいいわけで、もしかしたらそうじゃなくて本当は地方行きたい人も手軽に入れるからスーパー銭湯っていうのが需要もあるわけで。

YK:だから、あれなんですかね、天然温泉って名で営業してる地方の温泉が、実はスーパー銭湯に天然温泉の粉を入れたっていう僕のこだわってる形のお店やったって分かったら、何かやっぱり訴訟か何か起きるんですかね。みんなどう思うんですかね。何も起きないか。特に何も起きないか。

HI:天然温泉じゃなかったってことですか。

YK:そうです、そうです。

HI:地方の。

YK:景色のいいとこで。

ME:景色が良くて効能が同じだったら満足します、さすがに。

YK:何か世の中、天然温泉に限らずやたら天然にこだわりますよね。ちょっと関係ないんですけど。

ちなみに、日本は温泉法があり、この法で温泉の偽装問題の対策もなされています。