連載エッセイVol.7 「若者の科学離れをめぐって」 長谷川 寿一

2007-07-11

若者の科学離れが叫ばれて久しいが、それは実際に起こっていることなのか? 先日、有馬元文部大臣の話を聞く機会があったが、「理科離れなんてない。子どもはみんな、科学が好きなんだから」との弁。実際のデータでも(国立教育政策研究所が平成13年に実施した調査)、小学5年生から中学3年までの児童・生徒に教科ごとに好き嫌いを尋ねると、理科を好きと答える率は、どの学年でも国語、算数(数学)、社会よりも高く、中1でのみ英語を下回ったが、中2、中3では英語よりも高かった。なんだ、理科離れは根拠がないのか、よかったと思うのは早計である。同じ調査で、理科を勉強すれば、ふだんの生活や社会に出て役立つかどうかを尋ねると、その比率はすべての学年で他教科より格段に低く、理科を生かした職業につきたいかを尋ねると、さらに低かった。この数字のかい離は何を意味しているのか。科学技術政策研究所の渡辺正隆さんは、子どもたちに理科を学ぶ意味が伝わっていない、と指摘する。では、成人ではどうか。総理府の調査によれば、科学技術に関する情報に関心がある20代、30代の人々の間で、科学技術についての情報に関心があると答える比率が、中高年よりかなり低いことが目につく。インターネットや携帯電話など科学技術の恩恵をもっともこうむっている20代では、40-60代よりも20ポイントも低いのだ。内閣府の別の調査では、科学技術に関して、倫理的問題に対する懸念や、規制を求める意見が根強いことも浮かび上がっている。また、科学についての説明はわかりにくいという意見も増えている。次世代の日本の科学者を育成する上でも事態は深刻だ。このような状況の中で、科学者の対応は残念ながら鈍いといわざるを得ない。研究者がすぐ思いつく公開シンポジウムや市民向け講座も重要だが、それだけでは不十分である。国民のより広範な層に向けて、科学技術を分かりやすく説明し、なにより「科学する喜び・楽しさ」を組織的に伝えていかねばならない。これは科学技術インターブリタープログラムを履修する院生だけの問題ではなく、すぺての科学者にとっての使命であろう。

2007年7月11日号