連載エッセイVol.27 「インタープリターの2つのタイプ」 藤垣 裕子

2009-10-23

科学技術インタープリター養成プログラムも今年で5年目を迎える。大学院の副専攻として志望してくる学生の面接をしていて、ふと、気付いたことがあった。「中高生に科学をわかりやすく伝えたい」と考えるタイプの学生と、「目の前にある自分の研究課題において、研究成果を実際に使うことになるひととのコミュニケーションをどうとるか」ということに日夜悩んでいるタイプの学生の2種が存在することである。

なるほど、理科離れなどが指摘されている現在、自らが理科好きで中学高校時代をすごした学生は、自分こそが理科をわかりやすく伝える工夫ができるはず、と思うのだろう。さまざまな夢を語ってくれて興味深い。こんな工夫ができるのではないか、出張授業をやってみたい、などなど。自分の経験をもとに、自分より若いひとにわかりやすく伝えることは、インタープリターの大事な側面である。この場合、理科教育の現状を分析し、自分の考える工夫がそのなかでどう位置付けられるのか(あるいは位置付けられないほどユニークなのか)などを考える必要がある。

しかし、インタープリターの役割はそれだけではない。ある農作機械を開発して、それを農家のひとに使ってもらうためには、農家のひとがどのような機械を求めているかを知る必要があり、農家のひととのコミュニケーションが欠かせない。また、都市環境を研究する上で、地域のひととのコミュニケーションは、現場に足のついた研究をする上で欠かせない。こういった、目の前にある自分の研究課題において、研究成果を実際に使うことになるひととのコミュニケーションをどうとるかも、インタープリターの課題の1つである。

研究者の社会的リテラシーとは、「自分の研究が社会に埋め込まれたとき、社会のなかでどのように展開していくだろうかという点に考えが及ぶ能力」を指す。具体的には、自分のやっている研究の社会における位置付け、研究が社会に応用されたときにどのようなことがおこりうるか考えられる能力、自分の出したデータがどのように一人歩きするのかについて考えられることである。このような社会リテラシーのためには、自分の研究成果を使うひととのコミュニケーションが必要不可欠となる。中高生にわかりやすく伝えることだけでなく、自らの研究の意味を他分野の成人とともに考える。後者のほうが苦手なひとは多い。何故なら、後者に本気で取り組めば、自らの変容が求められるからである。

2009年10月23日号