シミュレーションは、理輪と実験と並ぶ“第3の科学”であり、科学技術の発展に寄与する重要な役割を担っている。そのため、シミュレーションを支えるスーパーコンピュータの開発は、科学技術の研究を推進するうえで、必要不可欠と言える。
先日、スーパーコンピュータ「京」を知る集いで講演をする機会があった。「京」は2009年の業仕分けで予算の凍結の判定を下され、また、某議員のコメントでも有名になったので、記憶に残っている方も多いのではないかと思う。その後、予算は削減されたものの、存亡の危機は免れた。そして、2011年には、見事、世界最速のコンピュータとなった。
「京」コンピュータは、世界最速のハードウェア開発とともに、その特性を最大限に利用したソフトウェア開発の両輪からなっている。私たちは「京」の医療関連のソフトウェア開発グループと共同研究をしている。そのため、研究成果の情報発信の一環として、今回の講演で一般市民を対象として研究紹介することとなった。講演後、かなり厳しい意見をいただき、伝えることのむずかしさ、そして自分の研究の意義を深く考えさせられた。研究者は当然ながら、日本の将来を考え、研究を通じて社会貢献できるよう日々研究に勤しんでいる。しかし、よかれと思ってやっていることも、相手によっては受け止め方が異なることを改めて感じた。
事業仕分けの一連の騒動を今振り返ってみると、大変ではあったが、多くの研究者にとって自分の研究と社会との関係を見直す良いきっかけになったと思う。しかし、研究の意義を理解してもらうのは、研究以上に難しい!特に、社会が多様化し、経済状況が厳しくなるなか、多くの異なる要素や意見を如何に集約して研究に反映していくのか、大きな課題といえる。科学技術コミュニケーションの重要性が増していると痛感した講演であった。
2013年3月25日号