連載エッセイVol.74 「いままで見えなかったものが見えるようになる」 真船 文隆

2013-10-07

兵庫県の理化学研究所播磨研究所には、X線自由電子レーザー、通称SACLAと呼ばれる、強いX線の光を出す巨大な施設がある。波長の短いX線で、波長0.1 nm付近の明るさは、既存の加速器SPring-8と比べて10億倍で、まさにこれまで経験したことのない光を出すことができる施設である。2011年6月7日に、波長0.12 nmの光を発振することに成功し、その後も、より明るく、波長をより短くするために改善が加えられている一方で、昨年度より研究者への供用が開始された。

実験は、ハッチと呼ばれる遮蔽された部屋の中で行う。研究者は、各々の研究の目的にあった実験装置をハッチの中に設置する。非常に強いX線なので、人体に影響のないように、光が通るときにはハッチの中に入れない構造になっていて、実験をするときはハッチの外から遠隔でデータを取得する。ハッチ内部の壁には小さな穴があり、その穴から光が出射される。研究者は、割り当てられた実験時間を、自分の装置とサンプルと向かい合って過ごすのが精一杯であり、その穴の向こうがどうなっているのか想像する余裕もないのだが、実はその壁の向こうには400メートルの加速器と200メートル強の光発生部があり、安定して光を出すために多くの技術者が見張っているという大掛かりな施設である。

SACLAでは、様々な研究が進められているが、「いままでに見えなかったものが見えるようになる」ことが研究ターゲットの一つであろう。例えば蛋白質結晶の構造を調べる場合、SPring-8では比較的大きな結晶を用意し、更にしばらくX線にあて続けることが必要である。SACLAでは、数ミクロン程度の小さな結晶でも、また短い時間で、構造を解析することが可能である。これは、大きな結晶になりにくい蛋白質の構造解析を可能にする大きな一歩である。また、近い将来、蛋白質が1分子あれば、その構造が解析できるようになると期待されている。

X線自由電子レーザーにとって、この数年間は、まさに劇的な進歩の連続であった。今後も研究者らによる継続的な努力によって、さらに「いままで見えなかったものが見えるようになる」ことが期待される。

2013年9月24日号