連載エッセイVol.78 「科学研究行動規範リーフレット」 長谷川 寿一

2014-01-27

去る12月、東大における科学研究行動規範をまとめたリーフレットが完成し、現在学内で配布中である。読者のお手元にもそろそろ届くころではないだろうか。よく目立つイエローの地に、東京大学の科学研究における行動規範、研究活動の不正行為、責任ある研究活動に向けて、不正行為の例示の4項目が、それぞれ日本語と英語で記されている。

このリーフレットは前々より科学研究行動規範委員会において準備を進めていたものだが、完成のタイミングが分子細胞生物学研究所旧加藤研究室における論文不正の疑いに関する調査(中間報告)の記者発表と重なった。今回の事案は、本学でかつてないほど大規模なものであり、再発防止の徹底は喫緊の課題である。東大の全構成員がこのリーフレットを熟読することは、再発防止の第一歩となるだろう。

これまで学部、大学院を通じて科学研究の行動規範についての教育が疎かであったことは否めない。筆者の研究室においても、年度始めの研究室セミナーで捏造・改ざん・盗用の厳禁は毎年注意喚起してきたものの、わずか数分だけの訓示で十分であったとは思えない。リーフレットに記されている通り、「科学研究に携わる者の責任は、負託された研究費(科研費等競争的資金のみならず運営費交付金をも含む)の適正使用の観点からも重要である。大学における科学研究を支える無数の人々に思いをいたし、十分な説明責任を果たすことにより研究成果の客観性や実証性を保証していくことは、研究活動の当然の前提であり、それなしには研究の自由はありえない。」

科学技術インタープリタープログラムでは、ともすればアウトリーチ活動に重点が置かれがちであったが、その大前提として、社会の中で科学が存立できる基盤について再認識することが不可欠である。当インタープリタープログラムは、学内でも最先端の科学論及び科学技術社会論の講義を提供してきたが、今後はすべての学部・研究科において、社会の中の科学(Science for Society)に関する教育が体系的に行われる必要がある。

専門分野の個別の研究にどっぷり漬るだけではすまない、科学の在り方が今、真摯に問われている。

2014年1月27日号