連載エッセイVol.168 「マンガが現実になるとき」 佐倉 統

2021-08-26

Eubrontes nobitai (エウブロンテス・ノビタイ)――中国で足跡化石が見つかった新種の恐竜の学名だ。発見者の邢 立達(Xing Lida)准教授(中国地質大学北京校)は子供の頃から『ドラえもん』の大ファンで、のび太が恐竜に名前を付けるエピソードにちなんで学名を付けたという。マンガの世界が、科学によって現実のものとなった。

これは、日本のマンガ文化の世界的な影響力を改めて痛感するエピソードでもある。

授業でロボットものアニメの話題を出すと、アトム→マジンガーZ→ガンダム→攻殻機動隊→エヴァンゲリオンみたいな世代による違いはあるものの、総じて学生さんの食いつきはかなりいい。『スター・ウォーズ』や『2001年宇宙の旅』の話をしてもほとんど反応がないのと対照的だ。

そしてこれらのロボットアニメも、日本以外のいろいろな国に熱烈なファンがいる(考えてみれば『ドラえもん』もロボットアニメではある)。さらに、誰もが、好きな作品の話をし始めると止まらないのも万国共通だ。以前、編集に関わっていたある雑誌で台湾の知人に攻殻機動隊についてのエッセイを依頼したら、規定文字数の2.5倍ぐらいの原稿が送られてきて、往生したことがある。量が多い上に密度がやたらと濃くて、削るところが見当たらないのである。

マンガは科学技術コミュニケーションと相性が良いメディアだとも思う。題材と対象に応じた物語を組み立て、視覚的に訴えることはお手のもの。必要に応じて文章を付加して論理的な情報を補うこともできる。テレビドラマ化された医療マンガ『インハンド』の作者、朱戸 アオさんにマンガとテレビの違いについてうかがったら、マンガは安上がりだとおっしゃっていた。テレビに比べるとはるかに少ない人手と費用で作ることできる、と。その分、作者の負担が大きいわけだが、関わる人数が少ないということはそれだけ作者の意見を色濃く反映させることができるということでもある。これも、科学技術コミュニケーションにおいてはむしろ説得力を増す要素となりうるところだろう。

マンガと科学技術、まだまだ新しいコラボの展開が可能なように思う。誰かチャレンジしませんか。

『学内広報』no.1549(2021年8月25日号)より転載