Re:Logergist(2023) エッセイ「裸の付き合い」

2023-09-21

「Re:Logergist」とは

グループでの討論を経て科学(学術)エッセイを書く企画です。日常を描写する科学エッセイを書き続けた物理学者の集団、「ロゲルギスト」の再現・再解釈を目指します。

科学(学術)エッセイ執筆を学ぶ授業として、Sセメスター『科学技術表現論Ⅱ』(担当教員:内田麻理香 特任准教授)を開講しています。

Re:Logergist(2023) エッセイ「裸の付き合い」

放談「温泉について」を踏まえて、HIさんがエッセイを執筆しました。

執筆者:HI(総合文化研究科 修士2年)

「裸の付き合いで人との距離が縮まる」との話は良く聞くが、本当なのだろうか。確かに、友人と温泉旅行に出かけた時、始めは恥じらいがあるが、一緒に温泉に入り、一晩過ごした後には、なんだか一枚壁が無くなる感覚はある。銭湯で初めて会った人同士が、なんでもない会話を始める光景も見かける。これが、「裸の付き合い効果」なのだろうか。誰もが皆感じる効果なのだろうか。

パナソニック株式会社エコソリューションズ社が同居家族をもつ全国の既婚男女1,000名を対象に、「入浴コミュニケーション実態調査」((「入浴コミュニケーション実態調査」パナソニック株式会社エコソリューションズ社(2018)))を実施した。調査によると、一緒にお風呂に入ることで「心の距離が縮まると感じる」と答えた人の割合は61.1%と過半数を超え、中でも20代の男性は85.0%が効果を感じており、若い年代ほど割合が高い傾向となった。さらに、裸の付き合いが特に大切だと感じる関係性ついて尋ねたところ、全体では1位「親子(51.5%)」、2位「夫婦(44.6%)」と、家族間での入浴コミュニケーションが特に大切に考えられていることがわかった。3位の「友人・知人(25.2%)」を大きく引き離しており、入浴コミュニケーションは友人の間よりもむしろ家族間で日常的に行われることが大切と考えられているようだ。

一方、「裸の付き合い」はスポーツ選手の間でも重要なコミュニケーション手法になっているようだ。東スポWeb((「【巨人】チーム力も〝整った〟 救援陣の躍進を支える「裸の付き合い」」東スポWEB))の記事によると、巨人救援陣の快進撃の要因は選手同士の「裸の付き合い」、つまり「サ活(サウナ活動)」にあったという。ある投手によると、「東京ドームにもサウナがあるので、先発陣は先発陣同士で入ったり、救援陣は野手とも入ったりと、練習時間のサイクルが同じ選手同士入って、くだらない雑談をしたり、前日の試合の反省やミーティングをしたりもするんです」とのこと。チーム内ではサウナ同好会も存在するという。先輩・後輩関わらず「裸の付き合い」を通して、疲れも取れ、コミュニケーションも取れて一石二鳥とのことであった。

今やコミュニケーションの手法は多様な世の中で、繋がろうとすればSNSなり「直接会う」手段を取らずして繋がることができる。直接会わない間接的なコミュニケーションの中では、いくらでも自分を取り繕うことができる。しかし、服もメイクも全部取り払ったありのままの自分をさらけ出さざるを得ないのが、“温泉”や“銭湯”という空間である。ここは飾らない本来の自分に戻れる場所であり、そこはストレスに無縁な、究極に開放されたところなのかもしれない。いくつものフィルターに覆われる中で生きることの多い現代こそ、「裸の付き合い」ができる場所を求められているのかもしれない。

参考文献