「Re:Logergist」とは
グループでの討論を経て科学(学術)エッセイを書く企画です。日常を描写する科学エッセイを書き続けた物理学者の集団、「ロゲルギスト」の再現・再解釈を目指します。
科学(学術)エッセイ執筆を学ぶ授業として、Sセメスター『科学技術表現論Ⅱ』(担当教員:内田麻理香 特任准教授)を開講しています。
Re:Logergist(2023) 放談「チャーハンについて」
2021年度のRe:Logergistの放談のテーマは、チャーハンです。世の中にチャーハンのレシピはさまざまありますが、いったいどの作り方が正解なのでしょうか。
YS:チャーハン作りにハマった時期があって、その1年間は中華料理店でチャーハンを注文し、お店の人が作っているところを見て研究して作り続けましたね。
卵の役割
MU:皆さんに見ていただきたいレシピがあります。最近見つけたこの記事にあるレシピですが、これが、前回の授業でHYNさんが話題に出した『美味しんぼ』(アニメ第15話「直火の威力」。強火で中華鍋でご飯をあおり、鍋から離れたご飯が強火の直火にあたってご飯がパラパラ、かつ香ばしくなる。)の作り方と全然違うんです。日本橋にある「リバヨンアタック」という店のシェフが作り方教えてくれています。卓上のガスコンロで、テフロン加工のフライパンで作っていて。
【四川料理のスゴい人】家庭のキッチンの火力で「プロ並みのチャーハン」をつくる方法 – メシ通 | ホットペッパーグルメ
MU:最初、フライパン温めてから火を消す。その火を消した状態で卵を入れて、卵を混ぜて不完全なオムレツみたいなのを作るそうです。いろいろなチャーハン作りの流派で生卵で卵かけご飯を作ってから始めるってレシピ、ありますよね? あれに似た作り方で、ちょっと卵を温めた状態で、事前に卵かけご飯を作るということみたいです。ここで具材を入れてくのですが、この時もまだ火を止めてます。ここまでやって一気に強火にして2分間ぐらい温めて、最後にしょうゆを焦がして入れる。ここも強火にするらしいです。
これで、おしまいです。私はまだ試したことがないのですが、このレシピでうまくできると思います? よく聞く、強火で作る、あおって作るっていうチャーハンの作り方と全然違うので。
HYN:多分、原理は分かるんですけど自分、チャーハン作る時って卵かけご飯から作る派で、卵を溶いたボールの中にご飯も入れて、ご飯と卵をさくっと混ぜて炒めるんですけど、それでパラパラになるのってご飯粒が卵液でコーティングされた状態で、それに熱が入るとタンパク質が凝固してご飯粒にコーティングされた卵が固まるから、粒と粒の間がくっつかなくなるっていうのが原理だと思うんです。
でも、卵かけご飯の時に卵とご飯を混ぜ合わせすぎるとくっついちゃうので、加熱した時に。逆にコーティングじゃなくて卵がつなぎになってしまう。それで、結構ねちょねちょになっちゃうんですけど。あらかじめ卵にちょっとだけ熱を加えた状態、さっきの不完全なオムレツみたいな、この状態でご飯と混ぜると、それが防げていいかもしれないです。ちゃんと卵がコーティングとしての役割を果たすというか、ある程度固まった状態でご飯にまとわりついてくれるので。
MU:そうか。生の卵だとべたっとしてしまう可能性があるわけですね。
HYN:そうだと思います。直火で強くあおるっていうのはそれとは全然違う話で。先週お話ししたのは、卵のためというよりは油分を飛ばす。中華料理って結構油いっぱいドバッと入れるので、それでべたつくんですけど、それを火であぶることで油を飛ばすっていうのが強火であぶることの意味だと思います。
HYD:よく、最近プロの味を普通の家庭の調理器具でも作れますというレシピ、テレビとかでも紹介していると思います。チャーハンは冷やご飯を使いましょうというレシピ、多いじゃないですか。でも、このレシピは熱々のご飯を入れましょうというのが、普通のレシピと違う感じがしました。
あと、最初に卵を入れてその後に具材とか入れると、結局、卵が一番火が通る時間が長いですよね。このレシピ、火を止めてる時間が長いとはいえ。なので、卵に熱を通す時間が長いと、おいしくできなさそうなのにちょっと不思議だなと思いました。
YS:個人的には、卵を具材の一つと捉えるかが違いだと思ってて、多分これは具材だと思ってないですよね。卵を米にまとわりつかせる何かだと思ってる。
HYD:調味料みたいな。
YS:僕も卵とかってコーティングさせてみたいなやる時は、結局、その卵は米粒の周りにちょっと付いてるだけみたいな感じになっちゃって、これはチャーハンじゃないなって悩んだりする時があるんですけど、そういう時は具材用の卵を先にいり卵みたいにしといて、後からぶち込むみたいなことはしたりします。
HYD:私もそれはやったことあるかも。
HYN:大きい中華鍋とかで作る本格的なお店のチャーハンって、卵をコーティング用じゃなくてちゃんと具として使ってて。でも、やっぱりそれにはすごい強い火力と大きな鍋っていうのが結構重要な役割を果たしてそうですね。
MU:具材用の卵と、具材ではなくおいしく作るための役割としての卵の両方、倍使えばいいってことですかね?
YS:倍使えば多分おいしいものができます。
鍋振りの物理学?
RY:チャーハン、一回しか作ったことないですけど、というか、料理をそもそもしないっていう感じなので。思ったのは、この薄いフライパンで作るとこぼれないかなと思ったんです。こういうフライパンじゃなくて、もっと深い鍋で作るイメージがありませんか。
MU:そうそう。中華鍋って言われるものですよね。
RY:ですよね。うちもそれなんです。
MU:中華鍋をあおるのできる人いますか。例の『美味しんぼ』の作り方では、ご飯をガスの火の上にかかるようにすると良いって言ってますが。
YS:中華鍋であおるのはできるんです、慣れれば。ただ、ひたすらもう前腕が疲れちゃう。中華鍋って棒の持ち手じゃなくて取っ手みたいな持ち手なんです。あの持ち手を鍋敷きみたいなの持ってつかんでわーってやるから、ひたすら痛くてやめちゃいました、中華鍋であおるのを。普通にテフロン加工のフライパンで作るくらいになってます、最近は。
MU:やっぱり、中華鍋とテフロン加工のフライパンって違うんですか。
YS:作っている分には、あんまり違いはないのかなって思ったりはします。ただ、でかい鍋のほうが鍋自体が保持できる熱が多い。卵とか入れた時に一時的に鍋肌が温度下がっちゃうってことがテフロン加工のフライパンとかだとあるんですけど、あんま中華鍋使ってる時は温度が下がるのを気にしたことなかったなって気します。
HYN:実は片手間に調べてたんですが、こんな動画があって。「チャーハンの鍋振り」の物理という動画なんですが、これが結構面白くて。
HYN:これ、実際に物理学的に検証してるんですけど、めっちゃしっかり検証してて、すごい面白いです。
うまく軸を2つ作って回すのがいいらしいんです。っていうか、それが原理になってるらしいです。
MU:軸を2つ作るっていうのが、まずイメージつかないんですが。
HYN:鍋の奥側と手前側で2つ回すってことです、回転。
MU:なるほど。そうか。全然考えたことなかった。
HYN:すごいです。後半に行くとちゃんと確か式とかも出てきて、こんな感じでかなりしっかりしてます、っていう動画でした。
MU:ありがとうございます。
RY:ちなみに、今のって再現できるんですか。多分、モデル組んでコンピューターのシミュレーションかなと思ったんですけど、あの角度で正確に人間の身体でできるのかなって思ったんですが。
体を動かした時にこのぐらいでしたっていうのは出せると思うんですけど、インプットとして例えば、角度が6分のπが一番いいってなった時に、じゃあ、6分のπで中華鍋を回すぞっていって回せるかっていうと、多分回せないんじゃないかなと思って。そこが実際、検証されてるのかなって。すみません、実験科学やってるんでそういうとこ気になるんですけど。
MU:それは実際、シミュレーション通りに人間でできるのかってこと?
RY:そういうことです。実際、人間でやったのかなっていう。
MU:でも、スポーツ科学とかありませんか。身体を動かすときに身体にセンサー付けて計測して、その結果の動画を確認してもう一回やる。
RY:そうか、そういうこと。
MU:そういうフィードバックで、体に覚え込ませるっていうのはできるんじゃないのかな。
RY:確かに、そうですね。練習すればって話ですよね。スポーツと一緒ですよね。
HYD:それでプロの人の動作を、つまりインプットじゃなくてアウトプットのほうで測ってみて、それが大体シミュレーション結果と一致してるとかあったら。
RY:確かに。
HYD:面白くないですか。いろいろな中華料理屋さんの、コックの鍋の角度を全部調べて山を作って。そしたらやっぱ腕のいいところ、味が評判いいとこは、シミュレーションに近いなみたいな結果が出たらめっちゃ面白いですよね。
HYN:多分こうしなさいよって言われて習うんじゃなくて、うまい人は勝手にこれに近い軌跡をたどってるみたいなのは実際ありそうですけどね。ちなみに、これがその完成形らしいです。1秒間に3回ぐらい振るのが、ペースとしてはいいらしいです。この緑の軌跡をたどって。元となった論文もYouTubeのこの動画の概要に載ってます。
MU:論文?
HYN:“The physics of tossing fried rice”っていう、ちゃんと参考文献があるらしいです、この動画には。
RY:なるほど。
油脂について
YS:チャーハンの場合、油はあるだけ入れたほうがいいと僕は思ってます。
HYD:油の種類によって違いとか感じたことありますか。何油だとなんとかとか。
YS:ごま油だと香りが立っておいしいなぐらいです。オリーブオイルは試したことないです。
HYD:私、基本オリーブオイルしか常備してないんですけど。
YS:それはまた極端な。
MU:健康オタクとしてのこだわりですか、それは。
HYD:そうですね。オリーブオイルと、ごま油は一応、香り付けのために持ってますけど基本は。
YS:油の違いみたいのって僕ちょっと懐疑的で、オリーブオイルだろうが油は油だろうって思ってて、飲んだからっていって健康にいいことはないと思ってるんですけど、どうなでしょう。
HYD:でも、飽和脂肪酸とか不飽和脂肪酸とか成分が違うじゃないですか。だから、それで、サラダ油よりは不飽和脂肪酸が少ないとかなんとかいろいろあるらしくて。オリーブオイルはめちゃめちゃ良い成分ってわけじゃないんですけど、アマニ油とかは摂ったほうがいい油らしいです。しかも、加熱したら失われる成分とかいろいろあるらしくって。だから、加熱するときにひくほうにはそういうのは使えないですけど、オリーブオイルはサラダ油よりはいいのかなって勝手に思ってます。
MU:化学式でいうと、不飽和脂肪酸は二重鎖がある方ですよね。だから、融点が違うはずで。
RY:融点が低いはずです、不飽和のほうが。
HYN:そうですね。今ちょっと気になって高校の時の家庭科の教科書引っ張り出して。
MU:すばらしい。
HYN:該当ページを見つけたんですけど、オリーブオイルや菜種油は、種類としては魚の脂と一緒で一価の不飽和脂肪酸らしいです。そっちはコレステロールを減らす働きがあって酸化しにくいんですけど、パーム油や、普通のバターとか動物性の油脂っていうのはコレステロールを増やして、あと中性脂肪も増やすから体にはよくない。だから、オリーブオイルが健康にいいのは一応、油脂の性質の違いとして科学的な根拠があるらしいです。化学式が違うようです。C、なるほど。
RY:CにHが付けるだけ付いてるのが飽和脂肪酸。
YS:Cの腕が余ってるからくっつきたがってるってことですか。
RY:余ってるっていうか、Cって4つの腕があるんですけど、Hひとつにつき2本の腕でついている。
YS:二重結合?
RY:そう。二重結合ってことです。二重結合があるってことは、Hがまだ入ってこれる余地があるから不飽和っていう言い方をします。
YS:なるほど。
MU:ちゃんと家庭科の教科書は読んでおくべきで、さらにそれをすぐ引っ張り出せるっていうのがすごいですね。
HYN:実家から東京に引っ越してくる時に、大事そうな教科書だけ引っ張り出して持ってきてました。
RY:普通、家庭科持ってこないでしょう。
HYN:家庭科が一番役に立ちます、生活に。
HYD:私も見なかったですけど、ほとんど。結局、面倒くさくて。母は自分が一人暮らし初めてする時に家庭科の教科書めっちゃ役に立ったらしいので、上京する時に親に、家庭科の教科書は持っていきなさいって言われて、家庭科の教科書は持ってきました。でも、もう4年間ぐらい使わなかったので実家に持って帰りました。
HYN:僕も久しぶりに引っ張り出しました。
HYD:レシピとかは、母の時代とかはネットもなかったんですけど、今はネットで調べられちゃうんで。でも、そういう知識は確かに便利ですね。