連載エッセイVol.106 「ゲームで科学技術と社会を考える」 江間 有沙

2016-06-02

カードゲームやボードゲームといったアナログゲームの開発が国内外で盛り上がっている。最近は教材としてゲームを作る研究者も増えている。かくいう私もその一人だ。素人ながらゲームを作っていると、ゲーム制作のプロとお話しさせていただく機会が何度かあり、興味対象のズレに気付く。

ゲーム制作の専門家は「あのルールは斬新だ!」など、ゲームシステム(ロジックや構造)の新規性を評価する。そこでは扱っている題材やストーリーは、ゲームを面白くするための”Flavor”、すなわち「味付け」に過ぎない。ルールを把握するのに1時間以上かかるような複雑なゲームシステムでも、繰り返し楽しみ攻略する醍醐味がある。

一方、素人の研究者はむしろその”Flavor”、つまり研究課題の奥深さを体感してもらうのがゲーム制作の目的だ。地球温暖化や生活習慣病など科学技術と社会を巡る複雑なジレンマや交渉は、ゲームの仮想性を利用してこそ経験できる。ただし、授業や研修など限りある時間の中で振り返りや議論の時間も確保するため、私を含め研究者はシンプルで直感的に理解できるゲームシステムを採用する傾向にある。

ゲームのわかりやすさ・エンターテイメント性と、伝えたい学術的正確さのバランスのとり方にゲーム制作のコツはあるが、目的や対象が異なれば作り方や遊び方は異なる。また、自分の授業で使いたいゲームは自作するのが手っ取り早い。というわけで、教養教育高度化機構の特任教員が集まって科学技術と社会の問題、科学的なものの見方や統計リテラシーについて学ぶコミュニケーション型推理カードゲームを2015年に開発した。「その男は週末にPM2.5を吸いに行くという。にもかかわらず、とても嬉しそうだった。なぜ?」「学生Aは海で勝手に蟹を捕ったことをツイッターにあげた。B先生が教授会で怒られた。なぜ?」など不思議なストーリーが示されている。「はい」、「いいえ」「関係ありません」で答えられる質問をすることで謎を解き明かすシンプルなシステムだが、そのためには柔軟な発想力、質問力と根気が必要だ。ホームページには2つのカード例と答えがある。答えに到達できたときの意外な「味付け」を是非試していただきたい。