連載エッセイVol.149 「『なぜだろう、なぜかしら』中学生は中学生編」 廣野 喜幸

2020-01-07

中学1年生の息子の運動会に行ったとき、中学3年生がやけに大きく見えた。息子が中学3年生になったとき、中学1年生がやけに小さく見えた。10代の成長は著しい。きっと内面も大きく成長しているのだろう。

小学生向け科学読本は学年別に、『なぜだろう、なぜかしら』『理科なぜどうして』『なぜなに理科』等々、10以上のシリーズが刊行されており、柳田 理科雄のジュニア空想科学読本シリーズなどもある。版元は対象年齢層を広く「申告」する傾向があり、小中学生から大人までなどと銘打っているが、ちくまプリマー新書や岩波ジュニア新書(中の理系本)は、高校生から大学初年級が読むと裨益するところが多いシリーズだろう。では、中学生向け科学本は、どのような状況にあるのだろうか。

中学生を対象とした書籍自体はけっこう出版されている。『13歳からの論理ノート』『13歳からの法学部入門』『13歳からの日本外交』『13歳からの経済のしくみ・ことば図鑑』『お父さんが教える 13歳からの金融入門』『13歳からのジャーナリスト』『13歳から知っておきたいLGBT+』『13歳からの世界征服』『新 13歳のハローワーク』『14歳の君へ―どう考えどう生きるか』『14歳からの政治入門』『図解でわかる 14歳からの地政学』『14歳からのお金の話』『14歳からの資本主義』。

元気なのは社会科学系のそれである。自然科学系は、宇宙科学者 佐治 晴夫さんが一連の著作(『14歳のための物理学』『14歳のための宇宙授業』『14歳からの数学』『14歳のための時間論』)を発表されているものの、それを除けばごくわずかしか見当たらない。中学生が読む気になったときには、小学生向けか高校生向けのどちらかを読んでね、あるいは、中高生と一括され、本来高校生に適した書物をあてがっておけばいいだろうといった気配が感じられる。こうした傾向は、高校進学率が高まった1960年前後からはじまったようだ。

成長著しい時期に、同じ本で済ませてしまってよいものだろうか。理科離れが進む中学時代に、それを押しとどめるような、科学に誘う書物が欠落しているのではないか。科学コミュニケーションは異文化コミュニケーションに似ている。認知科学によれば、自然科学の専門家と素人はそもそも発想法が異なる。大きさがないのに質量のある質点など、不自然に感じる方が普通だろう。自然科学に本格的に接し始める中学生時代にこそ、こうした発想ギャップを乗り越えさせてくれるような、『13歳からの自然科学』が求められるように思われてならない。

『学内広報』No.1529(2019年12月19日号)9頁より転載