連載エッセイVol.222「ペーパーレスオフィスの神話、その先で増えるモノ」 江間有沙

2026-02-20

『ペーパーレスオフィスの神話――なぜオフィスは紙であふれているのか』は、2002年に英語で書かれ、ペーパーレス化が進むはずの時代に、なぜ紙が減らないのかを描いた一冊である。私のお気に入りの本だ。

それから20年以上が経った2026年、ペーパーレス化を確かに「本気で」進めようとしている組織もある。最近、AI導入の現場を参与観察する中で、オフィス移転を機にフリーアドレスを導入し、共有棚、文具や個人ロッカーの設計まで含めて、組織としてペーパーレスを徹底しようとする自治体や企業に出会った。

ただし実際のところは、机の上をよく見ると、紙や本が積まれ、「自分の城」が築かれていることも多い。ペーパーレスは進んだのかと問われれば、答えは「ある程度はイエス」だろう。

しかし現場を見ていて強く印象に残ったのは、紙が減った代わりに、別のものが増えているという点だ。

その正体は端末である。

特に自治体では、セキュリティの関係から内部ネットワーク専用のパソコンとインターネット接続用のパソコンを分けて運用する場合があり、結果として二台持ちが常態化している。パソコンが増えると一緒に増えるものにはマウスもある。そこにiPadでしか動かないAIアプリ、私用と公用スマホが加わり、机の上には複数の端末やモニター、パソコン付属品が並ぶ。

さらに、現場を見てなるほど、と思ったのは、増えるのは個人の机の端末だけではない、ということだ。なんとネットワークごとに分かれたプリンターやスキャナーも増えていく。感覚としては、現在の問題はもはや「紙がなくならない」という話ではない。紙は減っている。そして端末が増えている。

『ペーパーレスオフィスの神話』が描いたのは、紙が消えないオフィスだった。もし私が今、この現状を一冊の本にするとしたら、『ペーパーレスオフィスの神話、その先で――なぜオフィスは端末であふれているのか』と名付けるかもしれない。

紙が減ったその先で、何が増え、何が残ったのか。働き方はどのように変わったのか。人々の働き方は楽になったのか。その問いは、AIやDXの時代にこそ考え続ける必要がある。

『学内広報』no.1603(2026年2月20日号)より転載