連載エッセイVol.193 「Newsとの付き合い方」 豊田 太郎

2023-09-25

化学の研究室を主宰している私は、実験室内のNewsに日々気を配っている。立案通りの実験結果は“発明”につながり、そうでない結果は意図しない“発見”となる可能性がある。実験室の安全管理者として、事故やヒヤリハットは特に大事なNewsであり、すぐに対応する必要がある。実験メンバーから実験内容を詳細に聞き、何がNewsなのかを理解するようにしている。

社会にもNewsはあふれている。その中で、科学者側から社会へ発信できる良質なNewsとは何かを考えたとき、私にはテレビのニュースとお付き合いした二つの夏の思い出がある。一つは、基礎研究の成果報告についてプレスリリースをおこない、記者からの問い合わせにこたえた時のことだ。本学広報課の担当者と周到にプレスリリースを準備し、発表後も、各々の記者に研究成果を説明し、その意義をアピールした。放送時間には上限があり他のニュースとの兼ね合いがあるため(夏は台風などの天候に関連する報道が多くなる)、何事もなく放映されるとは限らない。3分間であっても、研究成果を紹介するニュースが無事に放映されたときは、深い安堵を覚えたものだ。

もう一つは、社会的関心の高い事件が発生した際、専門家としてコメントを求められたときのことである。上記のニュース取材の一か月後、突然のことだった。医療への応用を考えていた私の研究課題を擦過したその事件は、私にとっても大変ショックなものだった。速報性の高さが優先されたため、記者からの問合せの翌日に取材が設定され、あり合わせで対応した。コメントを準備する時間が短かったので、その事件のニュースや記事をチェックし、私のコメントで誤解される可能性がある表現だと判断した場合には、報道機関に直接電話で修正を依頼した。基礎研究に研鑽を積む日々だけに胡坐をかいてはいられない、普段の研究教育活動とは異なる社会と接することの重要性を痛感した経験だった。この経験も、つい先日のことのように緊迫感をもって思い出される。

いずれの場合も取材記者との連携が重要だった。これまでの記者は、私の話によく耳を傾けてくれて、良いニュースにしてくださった。良いNewsに出会う秘訣はそこにあることを私は学ばせてもらった。

『学内広報』no.1574(2023年9月25日号)より転載