連載エッセイVol.38 「主催者とメンター」 真船 文隆

2010-10-19

2010年7月19日から28日の10日間にわたって、東京近郊で国際化学オリンピック日本大会が開催された。本年度は68カ国から270名弱の高校生が参加し、過去最大規模。生徒たちは、この10日の間に、化学実験、引き続いて筆記試験に挑戦し、総合点でメダルを争った。実験課題は早稲田大学、筆記試験は東大の駒場キャンパス5号館で行われた。我々化学系の教員の一部も、尾中篤総合文化研究科教授の指揮のもとで筆記試験の実施に関与し、貴重な体験をさせていただいた。

駒場キャンパス5号館は耐震補強のために数年前に全面的に改修された建物であり、アカデミックな雰囲気の中、生徒は試験に集中できたに違いない。生徒たちは、朝9時から5時間連続の試験を受けたあと、生協食堂で遅い昼食をとり、実験課題、筆記試験のプレッシャーからの開放感を思い思いに楽しんだ。ある生徒は、自然豊かなキャンパス内を散策し、また別の生徒は生協購買部で東大グッズをお土産として購入した。

主催者および各国のメンター(高校生の世話役)には、まだ重要な仕事が残っている。採点および得点交渉である。化学のみならず、国際○○学オリンピックは、さまざまな意味で民主的なコンペティションである。出題範囲には取り決めがある。採点も、主催者とメンターが別個に行う。その間に差がある場合(必然的に、メンターによる採点結果の方が高い場合のみ)、メンターが出題者に対して不服を申し出ることができる。もう一点、化学オリンピックはあくまで「ケミストリー」のセンスを問うという原則がある。解答は明らかに間違っていても、その中にある「ケミストリー」が正しければよいという認識が共有されている。採点も難しいし、交渉も楽ではない。メンターとしては、ケミストリーを十分に理解したうえで、どう交渉に持ちこむかが重要である。

中には正答(d)に対して、(a)と書いてある答案について、「我が国ではこれをdと読む」と言い張った国や、例えば、3×6=18×5=90-52=38のような式を書いて、「我々の小学校ではこのように教える」と言い切った国もあったようだ。確かにケミストリーは正しいかもしれないが、それ以前に問題があるような気がする。ただ、それでも言い張れるメンターの性格はうらやましい。もちろん、声の大きいメンターの国が有利になるようなことはなかったし、とりわけ優秀な生徒は、すでに高い得点をとっていたので、得点交渉の対象にすらならなかった。

2010年9月30日号