連載エッセイVol.44 「国際化学年によせて」 黒田 玲子

2011-04-21

今年は国際化学年で、世界中で様々な関連行事が予定されている。化学は我々の生活と密接な関係がある。身の周りには天然物だけでできているものは少なく、プラスチック製品、化学繊維、染料、洗剤、エアコンの冷媒、医薬品等々、すべて化学工業の産物である。これらなくしては、現在の我々の生活は成り立たない。ところが世の中では、「化学物質」は悪いものと決め付けられているようだ。新聞の広告に『化学物質ゼロの化粧品』と出ていたときには、びっくりしてしまった。我々の体も化学物質からできている。真空の化粧品?とまぜっかえしたくなる。どうやら、化学物質とは合成されたものということらしい。つまり、天然のものはよいが、合成されたものは悪ということらしい。しかし、天然物でも合成物質でも、毒となるものも薬となるものもある。ビタミンCはアスコルビン酸という化学物質であるが、レモンの中のものも、実験室で合成したものも、化学物質としてはまったく同じものなのだが。我々の日常生活を便利、豊かにしてくれるだけではなく、化学は生命現象や物理現象の分子レベルでの解明にも、重要な役割を果たしている。

国際化学年にちなみ、「化学かるた 元素編」なるものが作られたと、ネットに載っていた。以前「1家に1枚周期表」というキャンペーンがあり、在庫がなくなるほど人気がでたと聞いたが、同様の発想であろう。こういった活動を通して、人々が元素、化学物質、ひいては化学を身近に感じるようになってくれるとありがたい。科学技術インタープリターの活躍の場である。

国際化学年は、ラジウムとポロニウムの発見に対してマリー・キュリーに与えられたノーベル化学賞100周年を記念している。ノーベル財団は2001年のノーベル賞100周年記念に記念ポスターを作製したが、物理学賞はアインシュタイン、化学賞はマリー・キュリーの顔写真が中央に大きく載っていた。このように、マリー・キュリーは、化学の顔といえる存在となった。当時のフランスでは、女性が一人前の科学者として認識されることなど、まったくなかった。にもかかわらず、夫とともに放射能の研究でノーベル物理学賞を、さらに、夫の不慮の死後も数々の不遇を超えて大きな成果を挙げノーベル化学賞を受賞、ソルボンヌ大学の教授ポストを得た。第1次大戦中のレントゲン撮影設備普及への努力も忘れてはならない。すべてが、彼女の資質、志、不屈の精神の結実であり、女性に限らず、科学者すべてのロールモデルであろう。

国際化学年の今年は化学や女性研究者の活躍を推進するまたとない機会である。インタープリターの活躍を期待している。

2011年3月30日号