連載エッセイVol.122 「責任ある研究とイノベーション」 藤垣 裕子

2017-10-04

欧州では現在、2020年にむけた科学技術政策(Horizon2020)のなかでRRI(Responsible Research and Innovation)という概念が鍵となっている。責任ある研究とイノベーションといえば、日本ではすぐに「研究不正をしないこと」と結びつけて論じられてしまう傾向があるが、RRIは、決して研究不正にとどまるものではない。研究開発が社会からの問いかけに応答可能であること、研究およびイノベーションプロセスで社会のアクター(研究者、市民、政策決定者、産業界、NPOなど)が協働することを指す。

RRIのエッセンスには、open-up questions(議論をたくさんの利害関係者に対して開く)、mutual discussion(相互議論を展開する)、new institutionalization(議論をもとに新しい制度化を考える)がある。たとえば、東日本大震災そして福島の原発事故分析をすると、日本の技術者は閉じられた技術者共同体の中で意思決定をしてきており(例:安全性基準など)、地元住民に開かれたものにはなっていないことが示唆される。それを開くのがopen-up questionsに相当する。また、その開かれた議論の場で技術者から住民へ一方的に基準が伝達されるのではなく、互いに異なる重要と思われる論点について相互の討論をおこなう、あるいは福島の経験をもとに各国が学びあうというのがmutual discussionである。そして、それらの原発ガバナンスに関する議論をもとに、現在の規制局の在り方を作り変えていくことが、new institutionalizationに相当する。

日本人は残念ながら、「組織や規則は自ら作るものである」という感覚が弱い傾向がある。組織や規則はおかみがつくって「それに従うもの」という感覚が強いためでもある。それゆえ、規則や組織を常によいものに変えていこうとする意識や、制度は自ら選択し改変すべきものという感覚が弱いのである。この傾向が、上記RRIのエッセンスのうちの3つめ、New Institutionalizationの感覚の欠如となって顕われる。

こういった研究者と市民、政策決定者、産業界などが協働する場面において、東大憲章が掲げる市民的エリートは活躍することだろう。本学の卒業生が日本のRRIをリードする土壌をつくることを願ってやまない。

2017年9月25日号