連載エッセイVol.128 「オリンピックを支える科学技術」 大島 まり

2018-04-02

ピョンチャン冬季オリンピックが閉幕した。日本選手団はメダル13個と大躍進であった。また、フィギュア男子では羽生結弦選手が66年ぶりの連覇を達成し、また高木美帆選手は冬季と夏季オリンピックを通じて女子で史上初めて同一大会の金銀銅を獲得したりと、話題に事欠かない素晴らしいオリンピックだった。

今回のオリンピックで大変興味深かったのは、トレーニングや栄養管理などのサポートスタッフや,競技の質向上のためのサイエンスや技術の面など、選手を支えるバックステージにも光が当たったことではないだろうか。選手のインタビューでチームジャッパンという形で触れられることもあったし、テレビの番組で取り上げられることもあった。例えば、スピードスケート女子団体パシュートでは、個の能力で劣る日本女子チームがチームとしての力を向上させるために、風洞実験やシミュレーションを用いて空気抵抗の低減や選手交代の効率化を図っていることが取り上げられた。個々の選手の能力を向上させるとともに、チーム力を向上させためのトレーニングメニューや練習方法を生理学的な観点も含めて綿密に計画をたて、選手の身体的および精神的な面も含めてデータを分析し、フィードバックする。一方、ウェアも空気抵抗を減らすために素材から形までが詳細にわたって検討され、開発された。まさに最先端の科学技術および人材の全てを総動員して作り上げてきた成果が、オリンピックで結実したのではないだろうか。

次なる高みを目指して、技と記録への新たな挑戦がはじまる。私は幼少時代にフィギュアスケートを習っていたが、その当時は世界のトップレベルでも3回転を跳べる女子選手は数えるほどであった。今では、女子は3回転のコンビネーションが当たり前であり、男子は4回転から5回転への挑戦が始まっている。そして、人間の身体能力はどこまでのびるのだろうか。飽くなき挑戦が科学技術を発達させ、その発達がさらにスポーツを進化させる。しかし、科学技術はなかなかスポットライトが当たらない裏方になりがち。そこにちょっとでも光が当たり、目を向けてもらえることは、研究者としてとても嬉しい。

科学技術を制する者が、オリンピックを制すると言っても過言ではないだろう。2020年の東京オリンピックの開催まであと2年。科学技術の進歩とともに、どんなドラマを東京オリンピックで見ることができるのだろう。楽しみである。

2018年3月26日号