連載エッセイVol.133 「Why? とJust Wow!」 豊田 太郎

2018-09-04

私は、講義を受講している学生に、理科の実験実習で印象深かった体験はどんなものか尋ねることが多い。回答は、テルミット反応(閃光と高熱が生じる金属の化学反応)、モンキーハンティング(斜めに打ち出された物体の落下運動)、生物の解剖実習、化石の採掘体験など様々であった。こうした原体験は自然科学への入り口として重要である。私自身、小学生の頃にヨウ素デンプン反応をやってみて理科(特に化学)を好きになったクチである。これら回答で注目したいのは、こうした実験実習においては、学生が “Why?” のみならず “Just Wow!(意訳: コレはスゴイ!)” を感じていたことである。私たちは、実験実習する前に事前説明を聞いたり自ら予習したりして「この程度のものかしら」と憶測する。その後、その憶測が裏切られた時、感覚的衝撃を受けるのだろう。

インターネットで閲覧できる実験実習の動画の内容は、年を追うごとに充実し、過激さも増している。拡張現実や仮想現実の技術がこの流れを加速するだろう。本学では「VR教育センター」が発足したという。では、私たちがこれらを視聴者として追体験すると、実際の実験実習で “Just Wow!” を感じる機会が失われ、自然科学の魅力を感じにくくなってしまうだろうか?

私はこの疑問に否と答えたい。むしろ、ゲーテの『色彩論』に代表される、自然現象に構成論的にアプローチする手法が、まさに現代に合っている。動画等をみたら、監督者のもと、安全指導を受けた上で、自分が実験しても全く同じ結果になるのか、若干でも異なる実験条件をやってみたらどうなるか、各自が自分の手で行った実験実習の結果をまとめ、インターネット上で発信し共有してはどうか。そのような活動を通じて、新たな “Just Wow!” を感じる原体験をもった学生が一層増える仕組みをつくりたいと私は考えている。

ヨウ素デンプン反応の “Why?” については、私は大学院生になってようやく理解できたクチだ。実際のところ、2016年の先端研究で有力な実験データが発表されたばかりである[1]。学生や若い世代の “Just Wow!” に触発されて湧き起こる “Why?” を私は大事にしたい。

[1] Madhu, et al., Angew. Chem. Int. Ed. 2016, 55: 8032.(重要度が高く世界で注目される化学専門誌)

2018年8月27日号