私が運営委員を務める先進基礎科学推進国際卓越大学院教育プログラム(コーディネーター: 福島 孝治 教授)がこの春に3期生を迎え、プログラム生は30名を超えた。様々な学問分野で「基礎科学を深め、発展させよう」と気概溢れる大学院生との交流は、私には刺激の連続でプログラム生に眩しさを感じると同時に、自らにも活を入れる日々だ。中でも、学際研究(Interdisciplinary Study)にアプローチする大学院生の発表は記憶に新しい。学際研究は、本当に難しいと私自身も感じる。多分野の体系を真摯に学び、自身が何を理解するために研究するのかを研ぎ澄ます。そこで大事なのは対話と辞書ではないだろうか。
例えば、科学技術社会論では、「科学技術と社会との界面」というフレーズがよく使われるそうだ。これを聞き、私は大いに興味が湧いた──化学と物理学でさえも、「界面」のとらえ方が異なって議論がかみ合わないこともあるのに、科学技術社会論でいう「界面」とは何を指すのだろう──。図書館で『科学・技術・倫理百科事典』(丸善)を紐解いたが、勘所を探り当てることはできなかった。この「界面」には人々の動的なコミュニケーションの何かの特徴が表されているのだろう、浅学な私に理解できるのは先のことかもしれない。
最近、多言語話者の方が二言語話者よりも、外国語習得にむけて脳がより活発になるとの報告がなされた※。多分野の体系に触れて、それぞれの体系にある辞書・事典について、ある時には連関を俯瞰し、別の時には個別に深化したりする活動(Inter-Dictionary Studyと名付けよう)が、学際研究に取り組む大事なステップともなるはずだ。
私自身は縁あって、アーティストと共同プロジェクトを始めることになった。プロジェクトの詳細な説明は別の機会にゆずるが、プロジェクト内の対話は、互いの創作・表現から学び合ってなされており、活字の辞書も事典もまだない。活字段階にないInter-Dictionaryをつくりあげていく過程は、実験にのめり込むときの没入感さながらで大変面白い。
*Umejima, et al., Scientific Reports, 11, 7296 (2021).(オープンアクセス国際誌なので、インターネット上で無料で閲覧できます)