このリレーエッセイの機会も4回目を迎えた。大学院教育から初年次教育まで、任務の幅も広がり、書く材料も少なくないが、これまでを振り返ってみると学士課程教育についての執筆が多かったので、今回は大学院のほうについて書いてみようと思う。
当プログラムは東大全学の大学院生に開かれており、これまで、総合文化、理学、医学、薬学、工学、人文科学、教育、公共政策など、多くの研究科からの参加に恵まれてきた。修了生は、現在、本学の大学教員や海外で最先端の研究を進める研究者、科学技術行政官、科学を魅力的に伝える出版編集者、震災や言論に向き合う番組製作者などとして未来を切り開いている。
さて、プログラム受講生は入学後、自らの研究計画に基づき、指導教員を決めて、修了研究を進める。テーマは、科学研究のアウトリーチ、科学技術政策、研究開発のELSI(倫理的、法的、社会的課題)など多岐にわたる。三年前、最初に私を指導教員として希望したのは理学系研究科の博士三年生、主専攻の博士号取得と副専攻の修了が同年に求められる学生であった。副専攻は上半期に調査を履行し目途をつけ、下半期は博士号の取得に最大限の力を注いだ。本人の努力あって、学位取得と副専攻修了をともに達成し、今は欧州で研究者として活躍している。先週、フィレンツェでの学会の帰りに、パリの空港ですれ違っていたことを翌日のSNSで互いに知り、大いに驚きあった。地球上で偶然そうした出来事が起こるのも当プログラムの良さと思う。
今年度は、東大病院で臨床経験を積み、副専攻研究の国際学会での発信も検討している学生、King’s College Londonを修了し、WHOでの勤務を経た学生の両名から指導教員として希望をいただいた。貴重な就業経験や学術経験の後、改めて博士課程で研究に取り組むことに加え、さらに副専攻を履修し、知的活動の幅を広げようと努める姿勢に心から敬意を抱く。まもなく堅い信頼関係もできた。今朝も、もう一人の学生を含めて、東京、ミラノ、シンガポール、そしてInternational Conference First Year in Higher Educationへの出席のためダーウィンに滞在中の私とで、それぞれの研究について共有したところだ。
当プログラムは、学内外の関係の皆様と先生がた、そして、本稿で触れたような意識の高い学生たちにより成り立っていることを実感する。本学でのこうした教育の機会を心から有り難く感じている。
2014年7月25日号