先輩インタビュー 第4回 小林(大嶽) 晴佳さん(7期生)

柏の葉で一日航空宇宙博物館を開いたことは本当に良い経験になりました。これからも、科学の魅力を広める活動をしていきたいと思います。

2007年東京大学理科Ⅰ類入学。工学部航空宇宙工学科を経て2011年東京大学大学院新領域創成科学研究科入学、炭素繊維強化プラスチックでできた航空機の補修方法についての研究を行う。学部在籍時から科学コミュニケーションに興味を持ち、大学院修士1年時に科学技術インタープリター養成プログラム受講開始。2013年に大学院修士課程を修了し、文部科学省に就職。科学技術・学術政策局 人材政策課を経て現在は研究振興局 基礎研究振興課。

科学技術インタープリター養成プログラムを受講する前から科学コミュニケーションには興味をお持ちだったとか?
最初のきっかけは学部2年生のときに受講した全学ゼミ (全学自由研究ゼミナール「心を動かす表現法」) でした。そこで滝川洋二先生に科学の伝え方を教わり、科学コミュニケーション活動の楽しさを知りました。
3年生になって工学部に進学してからは工学部広報アシスタントとして、T time!という工学部の広報誌を作っていました。工学部の先生にインタビューをして研究の内容や面白さを紹介していましたね。他には工学理解促進プロジェクトというゼミ形式の授業も履修し、小学校へ出張してペットボトルロケット教室などを開催していました。だからインタビューした経験はけっこうあるのですが、されるのは初めてです (笑)。

どのような目的でプログラム受講を決めたのですか?
学部生の頃からそんな感じで科学コミュニケーション活動をしていました。大学院に入ってからは柏キャンパスに所属が移り、柏の葉サイエンスエデュケーションラボに参加していました。ここは「科学コミュニケーション活動を通じた地域交流の活性化」をテーマにサイエンスカフェやワークショップなどを開催する団体で、多くのイベントを開催していました。こうした活動を続ける中で、もっと効果的に科学を伝えるための勉強をしたいと思っているとき、プログラムの存在を知りました。自分の活動をより良くする手がかりがあればと考え、受講を決めました。

印象に残っている授業などはありますか?
2年目の前期にある必修の「現代科学技術概論Ⅰ」は、回ごとにいろんな先生が来て科学技術に関する様々なテーマの話をしてくださって、それに沿ってみんなで議論をしていくのが楽しかったです。それこそ今の職場である文部科学省でも取り扱っている論文ねつ造問題などについても、なくしていくにはどうすればよいのか、みんなで「あーでもない、こーでもない」と議論したのが印象に残っていますね。大学の授業って大人数の前で先生が一方的に喋って学生はそれを聞くだけっていう形が多いじゃないですか。そんな中、少人数でディスカッションできるのは楽しかったですし、こういう授業での議論を通じて同期とも仲良くなっていきました。

副専攻の魅力の一つとして、違う分野の友達ができることがありますね。私の同期には助産婦さんの方や哲学を研究している方などがいて、自分とは全く違う世界を教えてくれたのでとても刺激になりました。今も同期はみなさんそれぞれの分野で活躍されていて、本当にいい関係を築けたなと思っています。それから大島まり先生が実践されている出張授業を見学に行ったことも印象に残っています。経験豊富な先生の出張授業を見るのは、新しい発見も多く、大変勉強になりました。あと、一番印象に残っているのは、洪恒夫先生の授業で「博物館」という形を学んだことですね。本郷の博物館を訪れて洪先生に解説していただく授業だったのですが、展示を作った人の解説を聞きながら博物館を見られるというのはなかなかない機会ですよね。この授業を通して、博物館という形態なら科学に興味がない人も来てくれるのではないかなと気づくことができました。

修了研究は博物館を作られたんですよね?
洪先生の授業をきっかけに修了研究も博物館に決めて、指導教員の長谷川寿一先生に国立科学博物館の方や、駒場博物館を運営されている先生などたくさんの博物館に関わる人を紹介していただきました。5月ぐらいにテーマを決めて長谷川先生にお会いする、というスケジュールで始め、まずはインタビューを進めていったのですが、インタビューを通じて博物館の問題点や理想像が見えてきたので、一度自分の理想に近い博物館を開こうと決めました。そして、冬に柏の葉で一日航空宇宙博物館を開いたことは本当に良い経験になりました。

博物館には新しい考え方との出会いがあります。展示されているモノを見ているだけでも新しい世界に出会うことはできますが、対話する中で新たな気づきが生まれればいいなと思って、解説スタッフとの対話はもちろん、壁や机に落書きしてもらってその中でも対話ができるような博物館を作りました。実際に準備をしてみて、博物館をつくるのはかなり大変だということもわかり、とてもいい勉強になりました。また、長谷川先生にはお忙しい中いつもアドバイスをいただき、大変感謝しております。

不満とか大変なこととかはありましたか?
私は本当に楽しく受講できたので、不満はほとんどないですね。受講して本当によかったと思っています。まあ、柏と駒場の移動は少し大変でしたが (笑)。駒場での必修授業のため、柏の研究室を早い時間に出なくてはいけないときもあったのですが、いつも温かく送り出していただいた本専攻の指導教官には本当に感謝しております。本専攻の教授の理解は重要だと思います。本専攻あっての副専攻ですので。

今の仕事との関わりはありますか?
文部科学省に就職してから色んなことをやらせていただきましたが、いつも科学コミュニケーションは意識しています。例えば予算をとるために財務省の人にプロジェクトの内容やその必要性を説明したりすることもあるのですが、短時間でわかりやすく科学技術を伝えるというのは、まさに科学コミュニケーションですよね。プログラムの授業では「何を伝えるか、どう伝えるか」ということをキーワードに、自分の研究内容を紹介する場があります。もちろん自分の専門とは異なる人ばかりなので、難しい専門用語を使わずに説明しなければなりません。また、この授業では、自分の説明のどこが分かりにくいのかを指摘してもらうだけではなくて、自分がほかの人の発表の中でわかりにくいところを探す能力を磨く場でもありました。質問したり指摘したりするのは結構難しくて、いまだに得意ではないのですが、そういう訓練ができる場だったと思います。こういった授業はもちろん先ほどの例のように働き始めてからも役に立ちますが、就活で自己アピールをするときや、グループディスカッションをするときにも役に立つのではないでしょうか。
現在、私は理研係として、理研の予算や評価など、理研で優れた研究成果を出していただくために仕事をしています。私はもともと科学の魅力を広める活動をしたいなと考えていたのですが、一度に多くの人に科学の面白さを伝えるには、やっぱり素晴らしい研究成果が出ることが一番だと思います。例えば昨年末、113番元素のアジア初の命名権獲得などが報道で大きく取り上げられ、間接的ですが科学の面白さを伝えるお手伝いが出来たなと思っています。これからも、科学の魅力を広める活動をしていきたいと思います。

(インタビュー:2016年1月30日)

インタビュー後記
小林さんの明るい口調や表情から、この副専攻を楽しんでいたことを感じました。専門の異なる学生との交流やゼミ形式の授業が楽しい、というお話に関しては本当に同意するばかりです。副専攻をとるぐらいですから好奇心の強い人が多く、喋っていると時間が経つのが早いです。先生方も皆さん機知に富んだ魅力的な方々で、たくさん刺激を受けられる環境じゃないかと思います。おすすめされた「現代科学技術概論Ⅰ」はプログラムの授業の魅力がつまっていて楽しみです。小林さんは音楽サークルの先輩で、プログラムを受講し始めてからこっちでも先輩だったと知ったのですが、音楽とはまた違った一面をお聞き出来てあっという間のインタビューでした。小林さん、お忙しい中ありがとうございました。

農学生命科学研究科 修士2年・佐野 悠樹
科学技術インタープリター養成プログラム11期生